Special Report

反米と親米との間-盧武鉉新大統領

YOO, Michael
リサーチアソシエイト

1月14日、韓国のマスコミは森喜朗前総理の発言をめぐる様相をホット・イシューとして扱った。
問題になったのは、森前総理が金大中大統領との会談直後に発言した、次期韓国大統領に当選した盧武鉉氏についての「評価」であった。
「盧武鉉を支える多くの人達が反米感情を持っているそうで、心配している。盧武鉉が韓米日協調を重要視しているかどうか分からない」という森前総理の発言を野党ハンナラ党は明らかにした。
しかし、森前総理の発言内容は、それから2時間後、与党である民主党によって全く異なる内容として報道された。民主党によると、ハンナラ党が主張する発言内容は森前総理が韓国を訪問する前にマスコミが伝えた「間違った情報」に依拠しており、森前総理は実際、金大中大統領と会談した後には、「情報が間違っていたことを知って安心した」と語ったという。

森前総理の発言をめぐるハプニングは現在、盧次期大統領に対する全世界からの疑問の延長線として受け取れる。盧氏は、自分の意思とは関係なく、日本をはじめ西側諸国のマスコミから反米主義者として扱われている。ニューヨークタイムズ紙とワシントンポスト紙をはじめとするアメリカの有力メディアは昨年12月の韓国大統領選挙の最大イシューを「反米」であるとみなし、盧氏は反米の雰囲気を利用し、さらには反米感情を煽ることによって大統領に当選した、と報道した。 盧氏に対するアメリカの疑いの根拠は、21世紀初めの韓国の大統領として登場する盧氏が歩いてきた道と、選挙の時、明らかにした対米観を通じて詳細に確認することができる。

反米主義者でもいいではないか

盧氏の反米性向の出発点は、20年前の1982年まで遡る。当時、民権弁護士として働いていた盧氏は、韓国最初の武力反米デモとして知られる釜山アメリカ文化院火事事件の被告側弁護人として登場した。弁護士の盧氏はアメリカが全斗煥軍事政権を支える過程で被告人に反米感情が発生したと主張し、当時、タブー視されていた米軍撤収問題に初めて言及した。反米大学生の弁護人を務めた盧氏は以後、反米と民主主義の闘士というイメージで、政治家に転身する。

盧氏に反米主義者であるという刻印を押したもっとも重要な事件は、2002年9月11日にある大学で行った反米講演である。偶然にもアメリカの9.11テロ事件から1年後、というテーマで行われた講演で、盧候補(当時)は、アメリカに対する自分の立場を披瀝する過程で「アメリカに行った事がない、ということは反米主義者を意味するのか。もしそうなら、反米主義者でもいいのではないか」と語った。
盧氏は韓国の大統領候補者が通常行うワシントン訪問も拒否し、いまだにアメリカの地を踏んだことがない。大学講演での「反米主義者でもいいではないか」発言は以後、盧氏の戦闘的な政治性向にピッタリと当てはまるイメージとして定着した。
そして、「2030」世代で呼ばれる自尊心の強い20代、30代の若者から爆発的な人気を集めた。選挙結果にも現れたように、2030世代は盧氏を大統領に当選させる「力」となり、現在、次期大統領として掲げる改革を支持する中心勢力になっている。彼らは、1997年から始まったIMF統治期間中に、失業やリストラを経験した反米主義者である。IMFがアメリカの主導下で、IMFという大儀名分を通じて、アメリカが韓国を殖民地化したと思う民族至上主義者でもある。

ソウル市役所前に集結する韓国国民 当時、自ら反米主義者を標榜していた盧氏は、2030世代の主導で行われた2002年年末のろうそく示威運動を通じて一層反米性向を強くあらわした。ろうそく示威運動とは、韓国人の反米感情を一気に全国的に爆発させた、米軍の装甲車の事故で亡くなった2人の女子中学生に祈りを捧げるものだ。昨年のワールドカップ当時韓国人のパワーを知らしめた、ソウル市役所前に集結した市民と韓国国旗のうねりは、反米の声で武装した若者と、燃える星条旗にとって変わった。盧氏はこの運動をアメリカに平等な関係を求める正当な要求として、励ました。結局、これは大統領候補としての盧氏を支える基盤となり、祈りに参列しようとした野党候補の李会昌は、参加者から生卵の洗礼を受けることになった。

盧氏の反米性向は、次期大統領に決まった後にも引き続いている。代表的なのは、北朝鮮核問題で日本とアメリカが神経を尖らせた、去る2002年12月30日の発言だ。盧氏は3軍参謀総長から合同業務報告を受けた時、米軍撤収問題に公式に言及した。「駐韓米軍について、アメリカが自ら縮減するという戦略を立てたことがある。アメリカの国防戦略によって縮減の話が出たり、それが打ち切りになったりする。最近、また駐韓米軍縮減の話が出ている。(駐韓米軍の)縮減戦力を韓国軍がどういう風に補強するか、長期的な対応策を用意しているのか、聞きたい。変化の状況に対処できるように、5年、10年、20年の計画を立てて、準備しなければならない」
盧氏は、アメリカが公式にはまだ一度も触れたことがない米軍撤収問題にあえて言及し、韓国の新大統領は米軍のいない朝鮮半島を指向している、というメッセージをワシントンに明確に伝えたのだ。

金大統領の追従者である盧氏はアンクルサム(アメリカ)の髭を引っ張っている

ワシントンの反応は1月6日ワシントンポスト紙に掲載されたロバート・ノバクのコラムにいち早く現れた。シンジケートコラムニストとして、CNNの政治トーク番組であるキャピタル・ギャング(Capital Gang)の司会者を務めるノバクは、「韓国、自らの羽を試す時」という題のコラムで「北朝鮮の金正日が核を使って西側に経済援助を迫っているが、彼がほんとうに核戦争を始めると信じる人は誰もいない。本当の問題は反米を基調として選挙運動を行った盧次期大統領」と主張した。ノバクは、「過去左翼運動家だった、盧次期大統領は北朝鮮とアメリカの間の仲裁を提案した。ワシントンは盧次期大統領の話をそのまま受け入れ、米軍を韓半島から引きあげ、南北韓がお互いに譲歩するという案を衝動的に考慮することができる」と記した。続いて、ノバクは「1981年、韓国軍部によって処刑される直前にレーガン大統領に救出された金大中大統領が、最大の反米大統領であったことが証明された。金大統領の追従者である盧氏はアンクルサム(アメリカ)の髭を引っ張っている」と非難した。
ノバクのコラムに引き続いて1月8日ワシントンポスト紙は「アメリカが韓国を捨てなければならないのか」という長文記事を通じ、韓国の反米感情を具体的に報道した。

ワシントンの雰囲気が、韓国に対して刺々しく急変するなか、韓国国民は不安になり始めた。
米下院が、既に駐韓米軍撤収問題に関する聴聞会を開く予定であり、駐韓米軍を全部引き揚げた後、北朝鮮の核施設を空襲する可能性が高い、という報道が出始めた。盧氏が従来の反米発言を覆して、「反反米」、つまり親米に豹変したのは、国民の間に不安が広がりはじめたからである。
変化は盧氏の側近達から現れた。「盧次期大統領が反米である、といわれるのは、間違った情報である。盧氏は早い内に、アメリカを訪れ、56才の同い年であるブッシュ大統領とさまざまな問題を一緒に論議するだろう」
盧氏が、公式に、従来の反米を反反米、そして親米までに転向したのは1月13日ブッシュ大統領の特使として訪韓したジェームズ・ケリー米国務省アジア太平洋担当次官補に会った時だった。
「韓米同盟関係は過去も大切だったし、現在も大切で、未来にも重要だろう。就任後、はやい内にアメリカを訪れる予定である。アメリカはこれからも友邦として残っていてほしい。駐韓米軍は必要で、これからも必要である。こんな考えを私は一貫して持っていた」
反米主義者を自認してきた盧氏が、アメリカを韓国の最大の友邦としてみなしている、と初めて公式に明らかにしたのである。

韓米連合司訪問時の盧氏のサイン 盧氏は韓国最高指導者として初めて駐韓米軍司令部を訪問し、米軍駐屯の必要性を力説したのは、ケリー次官補に会ってから3日後だった。盧氏は韓米連合司を訪問した時、朝鮮戦争で亡くなった5万余人の米軍の英霊が韓国人の胸底に永遠に残っていると強調した。米軍は21発の礼砲を撃って、盧当選者を歓迎した。盧氏は訪問の芳名録に「We are good friends」と記した。

駐韓米軍は必要で、これからも必要である

韓国の新大統領と反米に関わる論議は、盧氏が積極的に反反米、親米発言を行った後、少しずつ弱まっている。しかし、問題は韓国ではなくアメリカに移った。盧氏の意思とは逆に、韓国人の反米感情は既にワシントンでホット・イシューとして浮上してしまったからだ。また、大統領選挙のために反米感情を利用したのか、本当に反米志向なのかに関わらず、盧氏が示した反米感情がアメリカで本格的に論議され始めてしまったのだ。アメリカは公式に、韓国の国民が米軍駐屯を望まない場合、いつでも引き揚げる、と表明している。そして、盧氏は反反米、親米へと転じたが、いまだに2030世代の反米感情は強い。アメリカのマスコミに登場する韓国人のイメージは既に反米、米軍撤収に繋がっている。

米軍撤収が本格的に行われた場合、その波紋と影響力はアメリカと韓国だけではなく、北東アジア全体にまで拡がる。アメリカが米軍なき朝鮮半島構図を具体化するためには、日本、中国、ロシアを結ぶ新しい軍事フレームが必要となる。もっとも急がなければならないのは全世界の海外駐屯米軍のうち、約4割にあたる3万7千人の米軍が韓国を引き上げた後、どこに行くのか、という核心的問題である。
2003年は、韓国人の対米移民100周年、そして米韓軍事同盟の50周年にあたる。100年間の人的交流と、半世紀におよんで蓄積してきた血を分けた米韓の関係が、どのように変化するのか? 米韓関係の変化によって日本、中国、ロシアはどんな影響を受けるのか? 盧氏が北の金正日とともに世界から注目される理由は、これらの問題に答える鍵を握る人物だからだ。

2003年1月20日

2003年1月20日掲載

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