Special Report

日米関係と予算編成のラウンドテーブルを振り返って

中林 美恵子
研究員

2002年12月5日、RIETIと米ジョンズホプキンス大学ライシャワーセンターは、予算編成から見た日米関係についてのラウンドテーブル(ワークショップ的な会合)を共催した(プログラムファイル参照)。

財政は国家政策の基幹であり、あらゆる分野を横断して議論されなければならない。ところが日米どちらも、研究者や政策決定者は特定分野にエネルギーを集中して仕事をしているため、なかなか多元的に物事を考え難い状況にある。

予算編成は、日米両国をより深く理解するためには欠くことのできない要素である。予算という軸を通して二国間関係を考えると、実に様々な問題が浮かびあがってくる。今回はジョンズホプキンス大学のライシャワーセンターと共催であったため、まず日米関係になじみの深い安全保障、外交、貿易を取り上げてみることになった。

多元的なラウンドテーブルで、しかも予算を軸に各分野の問題を議論することは実にチャレンジングである。またその議論から何が発見できるのかも未知数である。したがって、今回は先々のコンファランスの可能性を探る準備段階と位置付け、スピーカーたちも最終ペーパーを用意することなく、各プレゼンテーションに臨んだ。モデレーターは主催者の中林美恵子が中心となり、ジョンズホプキンス大学SAISのNathaniel Thayer教授と二人で担当した。

ラウンドテーブルが終了し、主催者は以下の点について得るものがあった。

1.予算という題材は、各分野に共通する関心事項である。

当日のワシントンDCは大雪に見舞われ殆どの学校や政府機関が閉鎖を余儀なくされた日であったにも関わらず、国務省のオフィシャルや上院銀行委員会のスタッフ、シンクタンクの研究員らが、会場であるジョンズホプキンス大学に足を運んだ。研究会というと特定の分野の人間が集中するのが常であるが、様々の分野の人間が集合し、また紹介し合うという、大変ユニークなラウンドテーブルとなった。

2.国境を越えるだけでなく、専門分野を超えて学び合った。

各分野の専門家は、自国の予算編成プロセスに馴染みが深くない。ましてや他国の予算編成プロセスについて学ぶ機会は極端に少ない。このラウンドテーブルは、国際理解を目的としたものであったが、専門家たちが多元的に予算編成プロセスを考える出発点になった。この後も参加者たちの間で国境と専門分野を超えての交流が期待される。

3.財政がもつ政治的要素は日米共通の問題である。

民主主義国である日米は、それぞれ違った予算編成のプロセスをもっている。予算年度のサイクル(日本は4月から、米国は10月から)も違えば議会の役割も大きく異なる。しかし共通していえるのは、予算編成には、政治と制度が大きく関わっていることだ。既得権益が硬直化する度に改革を必要とするのが民主主義の運命である。そういう意味で、日本は米国に比べて予算編成プロセス改革の議論にかなりの遅れをとっている。財政を制度の一部として枠組みから考え直す研究が日本にも必要であろう。

ラウンドテーブルの議題となった各分野においても、政治と制度の存在が確認できた。貿易分野では、例えば補助金政策が世界の貿易交渉におけるトピックとなり得ている。米国議会では今年、90億ドルを越える歳出を含んだ農業法案が通過した。一方の日本では、既得権益者からの圧力に抗しつつ、アジア各国との自由貿易協定が議論されている。政府からの予算出動で長年支えられている産業は競争力を失うのが常である。それにも関わらず歳出が続くのは、政治と制度が大きな影響力をもっているからであり、またそれらが硬直している証である。

外交分野では、ODAなどの政府開発援助が財政支出の代表例として上げられる。米国では30を超える政府機関がODA関連の予算編成に関わっている。日本では10以上の省庁や機関が関係してくる。予算編成のプロセスとして非常に分かりにくいのがODAの分野であり、米国では議会も含めて混乱が日常茶飯事だ。さらに日米ともに議員の介入がある。また財政規律が厳しい時代になると、最初に予算削減の対象になるのもODAである。ただしODAの分野では、テロとの戦争やアフガニスタンの復興などを含め、日米の協力関係が見られ、これは貿易分野とは対照的である。

安全保障分野では、テロの攻撃を受けて米国の軍事予算が急上昇している。一方の日本は何十年もの間、防衛費のGDP比に大きな変化がない。これは日本の安全保障政策そのものに大きな変化がないことを示している。米軍基地に対する思いやり予算など、日米同盟を機軸とした財政協力体制は両国の緊密さを示すものであるが、近い将来、イラク攻撃などが起これば、日本は復興援助などの予算面でも同盟関係の真価を問われる可能性が出てくる。外交分野と密接に絡む部分であり、日本では政治および財務省の最終判断が決定を左右する。

政治や世界情勢に常に左右されながらも、予算編成は特定の枠組みの中で決定されている。予算編成プロセスを検討するに当たり、様々な分野における諸問題を考慮に入れることが如何に肝要であるかを、改めて教えてくれたラウンドテーブルであった。そして時代や経済の発展に伴い、常に改革を要する予算編成という問題の大きさと重要性を再確認した。これは日米双方に共通する課題であり、財政の考察が両国のより良い同盟関係と相互理解にも貢献できると期待する。もしシンポジウムなどを開く機会が次回あれば、更に具体的な政策一つ一つを検証し、予算編成プロセスとの関係を明らかにしていきたいものである。

2002年12月27日

2002年12月27日掲載

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