RIETI ポリシーディスカッション

第3回:不良債権処理 十分な査定情報開示を

小林 慶一郎
研究員

小泉内閣の改造を機に「銀行への公的資本注入」と「不良債権処理の加速」への流れが強まっている。しかし、このようなキャッチフレーズだけでは、前回(99年)の資本注入時の議論と変わらない。当時も銀行の資産査定は厳格にされていたはずだった。

しかし、一昨年のそごう、昨年のマイカルの経営破綻時に主要銀行が貸し出し債権を破綻懸念のない債権として甘く査定していたことが発覚した。その後、金融庁の特別検査で銀行の貸し出しを厳しく査定し直したが、それでも正常先や要注意先とされた債務者の中に、破綻に瀕(ひん)した企業が混じり込んでいるのではないか、そのような企業の倒産に備える銀行の貸し倒れ引当金が不十分なのではないか、という「合理的な疑い」が国民に蔓延している。

不良債権処理を加速するという場合、これまでは事実上、すでに破綻している企業の処理を加速することとされてきた。だが、これでは「正常先・要注意先に危ない企業が混じっている」という疑いは消せない。

この疑いが事実か否かを確認するのが「不良債権処理を加速する」第一歩でなければならない。それには、竹中大臣も強調しているが、厳格な資産査定が必要だ。しかし、「厳格な資産査定をやりました」と国民に言うだけでは不十分である。ここまで不信が高まっている今、銀行の資産査定への信頼を回復するためには、十分な査定情報の開示が必要だ。もちろん、個別の企業名や銀行名を開示すれば、無用の信用不安をあおることになる。資産査定の結果を集計し、主要行全体の資産の健全性を示す指標を公開するのである。

ほんの一例だが、たとえば次のような情報が開示されれば、銀行の資産の状況や、不良債権処理がどの程度進んだかという点について、国民が共通認識を持てるようになるだろう。

まず、過去2年間に破綻した大企業について、破綻時に貸し付け上位3行がどの債権分類に分類していたか、引当率はいくらだったかを情報開示する。

次に、経営不振の大企業を選別する分かりやすいメルクマールを作る。たとえば株価100円割れが続いている企業、または有利子負債が毎年の営業利益の10倍を超える企業などの基準だ。そして、そのメルクマールに該当した企業を銀行がどの債権分類に分類しているか、またそれらの企業への貸し出しについて、銀行が引当金をどれくらい準備しているか、を集計し、その集計値を公表するのである。こうした集計値を、金融庁の検査だけでなく、日銀の考査で確認することにすれば、査定情報の信頼性はより高まるだろう。

こうした集計情報の開示が、前回の資本注入時の轍を踏まず、本当に厳格な資産査定を実施するための前提条件ではないだろうか。

厳格な資産査定を進めれば、いくつもの難問に直面することになる。まず銀行が過小資本に陥れば、追加的な公的資本注入が必要になる。そうなると前回注入した公的資本は返済されず、その扱いが問題になる。また、資産査定を厳格化した後には、不振大企業の整理と産業再編を進めなければならない。銀行・企業の整理に伴って失業者の増加は避けられず、失業保険等の拡充で経済を下支えすることが不可欠だ。

不良債権処理を加速するには、役所間の縦割りを排し、金融、産業、雇用、財政に目配りできる経済政策全体の司令塔をまず確立し、包括的な政策パッケージで整然と対処していく態勢が求められるのである。

この文章は朝日新聞「私の視点」(2002年10月4日)より転載されたものです。

2002年10月18日

2002年10月18日掲載

この著者の記事