世界の視点から

欧州におけるポピュリズムと信頼

Christian DUSTMANN
ユニバーシティカレッジロンドン経済学教授・UCL移民分析研究所所長

Barry EICHENGREEN
UCLA 政治経済学教授

Sebastian OTTEN
UCL移民分析研究所上席研究員

André SAPIR
ブリュッセル自由大学経済学教授

Guido TABELLINI
ボッコーニ大学経済学教授

Gylfi ZOEGA
アイスランド大学経済学教授

近年、既成の政治制度や政党に対する信頼が低下する一方、ポピュリズムの動きやその政策への支持が急速に拡大している。とりわけ欧州では、欧州連合(EU)に対する懐疑的な見方が顕著となっており、一部では露骨な敵意さえみられる。本稿では、CEPRの「Monitoring International Integration series(国際統合の観測シリーズ)」の最初の報告書を紹介する。同報告書は、各国の政治制度および欧州の政治制度に対する信頼が低下している原因を分析するとともに、信頼低下の結果、EUが崩壊の危機に直面しているのかについて分析している。

近年、先進諸国ではポピュリスト政党やその政策への支持が急速に広がっている。反エリート感情、ナショナリズム、グローバル化への抵抗、そして超国家的制度に対する懐疑は、第二次世界大戦後に成立した国際経済秩序に揺さぶりをかけている。EUに対する態度についても、同じような懐疑(一部では露骨な敵意)が歴然としている。このことは、EUが崩壊の危機に直面していることを意味するのだろうか?

ポピュリズム台頭の要因はいくつか存在する。たとえば、国際貿易が所得分配に与える影響(例:Colantone and Stanig 2016, Dippel et al. 2015)、金融危機によって政府や国際機関への信頼が低下していること(例:Funke et al. 2016)、移民増加による地元住民への影響(例:Dustmann et al. 2005)などである。

ポピュリスト政治の台頭に象徴されるように、各国の政治制度および欧州の政治制度に対する信頼は低下しつつある。我々は、CEPRの国際統合の観測シリーズの最初の報告書「Europe's Trust Deficit: Causes and Remedies(欧州の信頼赤字:原因と処方箋)」において、こうした信頼低下の原因を分析している。

ポピュリズムと各国制度・EU制度への信頼

まず、各国の政治制度および欧州の政治制度に対する信頼の欠如が、ポピュリズムを決定づける特徴の1つであることを示す。我々は、EU15カ国について2002年から2014-15年に収集されたEuropean Social Survey(欧州社会調査、ESS)のデータを使用した。このデータは、(右派であれ左派であれ)ポピュリスト政党に投票した有権者は、自国の議会や欧州議会への信頼が低く、欧州統合にも反対している、ということを示唆している。これは年度や各国特有の影響に加え、有権者の年齢、性別、学歴をコントロールしてもなお、明らかな傾向である。図1の左上のパネルの各点は、直近の総選挙においてポピュリスト政党に投票した平均確率を、自国の議会に対する信頼レベル別に示したものである。年齢、性別、学歴を一定とし、タイムトレンドと各国に特有の差異をコントロールしている。この図は、この傾向を明確に示している。

図1:ポピュリスト政党への投票と、各国制度・EU制度に対する信頼感との相関
図1:世界的なポピュリズムの台頭
注:図はビンの散布図と、OLS回帰に基づく線形回帰直線を示す。各パネルの縦軸は、ポピュリスト政党に投票する確率を示し、横軸は、それぞれの態度における変数の値を示す。各点は、各ビン内におけるX軸変数とY軸変数の平均値を表す。ビンを計算するため、X軸の変数は、同じ規模の20のグループに分割している。
出所:European Social Survey(ESS)に基づき独自に計算。

信頼と反EU票に関する地域・時間的傾向

近年、EUの政治制度および各国の政治制度への信頼が低下し、有権者が反EU政党を支持するようになった理由は何だろうか? この問いへの答えを探るべく、有権者の態度や選挙結果における、地域・時間的な変化に着目した。

ESSのデータに基づき、各国の政治制度およびEUの政治制度に対する平均的な態度を地域別に算出した。図2は、2014/15年の欧州各地域における、自国議会への信頼に対する欧州議会への信頼の比率を示している。緑色(赤色)は、自国の議会と比べて欧州議会への信頼が高い(低い)ことを示している。イタリアとギリシャに関しては、2014-15年のESS調査データは入手できなかったが、それ以前の調査データでは両国とも濃い緑色で、自国の議会よりも欧州議会を信頼していることがわかる。欧州北部の人々は欧州議会よりも自国の議会に信頼をおいているが、地中海沿岸諸国はその逆である(興味深いことに、スコットランドも地中海沿岸諸国と同じ傾向を示している)。このパターンは、自国の政治制度の質についての認識に関するデータと整合的で、欧州南部では低い。つまり、自国の政治制度が効率的でないと認識されている地域では、自国の政治制度への信頼が低い。

ただしこのパターンだけに着目しても、各制度に対する信頼の程度は個人によって異なるため、信頼の分布はわからない。その詳細を調べたところ、ドイツ人は欧州議会をかなり信頼しているが、自国の議会についてはさらに大きな信頼を寄せていることが分わった。スカンジナビア諸国も同様に、政治制度に対する信頼が高い。イングランドは例外で、ほぼどの国よりも欧州議会への不信が強いが、自国議会への信頼が高い。

図2:欧州における地域統計分類単位ごとの信頼の比率(2014/15年)
図2:欧州における地域統計分類単位ごとの信頼の比率(2014/15年)
注:信頼の比率は、自国議会への信頼に対する、欧州議会への信頼の比率である。
出所:European Social Survey(ESS)のwave 7に基づき独自に計算。

加盟各国における反EU政党の得票率の傾向を調査するため、我々はChapel Hill Experts Survey(CHES)による反EU政党の分類に基づき、1999年から2014年までに行われた欧州議会選挙における反EU政党の得票率を地域ごとに調べた(注1)。図3は、各国とEU全体の平均得票率をそれぞれ示している。2014年の選挙においては、ほぼすべての国で反EU政党が得票を伸ばしている。しかし、50%を超えたのは英国とイタリアのみであり、2014年においては、EU全体での得票率は30%に過ぎない。2009年と2014年の差が最も大きかったのがイタリアである。

反EU政党の得票率が上昇したのは、政党間における票の配分方法が変更になったことが原因かもしれない。また、かつて親EU的だった一部の政党が反EUに転じるなど、政党の政策綱領の変更が原因である可能性もある。データが示唆しているのは、変化したのは政党ではなく有権者であるということだ。ほとんどの国において、主要な政党の立場が著しく反EU化する現象は起きていない。

図3:欧州議会選挙における反EU政党の得票率
図3:欧州議会選挙における反EU政党の得票率
出所:European Election Database(EED)およびChapel Hill Expert Survey(CHES)に基づき独自に計算。

不信と反EU感情はどこからくるのか?

この疑問を解明するため、まず個票データを検証した。その結果、高齢者コホートと学歴の低い人は、自国議会と欧州議会への信頼がより低く、EUへの支持は低く、ポピュリスト政党に投票する傾向が高いということがわかった。高齢者が親EU的でないという事実はあまり知られていない。「若年層は第二次世界大戦の記憶が薄いのでEUを評価していない」といわれることがあるが、実際にはむしろ逆である。この結果は、欧州の未来にとって朗報である。というのも、高齢でEUに懐疑的なコホートはやがて、若くて親EU的なコホートに取って代わられるからである。ただし、このデータ中にみられるパターンが、一般的な加齢効果ではなく、ある特定の出生コホートを反映したものであることを前提としているのはいうまでもない。

態度や選挙結果の平均を地域別に考察するため、失業率や1人当たりのGDPといったマクロ経済指標との相関を調べた。経済情勢が悪化すると議会への信頼は低下するが、とりわけ欧州議会よりも自国議会に対する信頼が著しく低下する。ただしマクロ経済ショックによる負の影響は、自国議会への信頼低下の現象における大部分を説明できるものの、反EU政党の選挙での躍進という最近の変化についてはほとんど説明できない。マクロ経済ショックが選挙にもたらす負の影響は、南欧地域でより大きく、昨今の金融危機の後はとりわけ顕著になっている。

加えて、より権威主義的で伝統文化的な特徴を持つ地域では、マクロ経済情勢が悪化すると、政治制度への信頼に大きな悪影響がみられる。一方、よりリベラルで現代的な特徴を持つ地域では、マクロ経済情勢が変化しても信頼感にあまり影響はない。

政策への含意

以上の結果は、EU崩壊の危険が現実に差し迫っていることを示すわけではない。むしろ、英国があくまで例外であることを示唆している。たしかに金融危機は損害をもたらしたが、マクロ経済情勢の悪化がEUに対する態度に及ぼす影響はさほど大きくない。そして歴史を参考にすれば、経済状況が改善しつつある現在、態度や選挙結果はEUに対して好意的なものへと変化するはずである。すでに、フランスやオランダでの最近の選挙においても、こうした見方を示唆するエビデンスを目にするようになっている。

しかしながら、注意すべき理由もある。国民投票の結果であるBrexitと関わる社会経済的要因の多くは、他のEU諸国でも見られるからである。とりわけ、英国以外のEU加盟諸国の国民は、自らの将来に楽観的な人と悲観的な人に分断されており、また変化やグローバル化を受け入れる人とそれらを恐れる人に分断されている。

欧州統合への支持を維持したいならば、EUの政治制度および各国の政治制度は、社会が直面する課題に適切に対応しなければならず、とりわけ「経済成長の恩恵を十分に受けられず、技術変化とグローバル化に取り残されてしまった」と感じている、高齢者層の不満に十分に応えていかなければならない。成長と雇用の促進、そしてグローバル化と技術のあおりを受けた人々を、これまで以上に保護することが優先事項である。EUの各制度において、一層の透明性と説明責任が求められていることは明らかだ。これまで各国およびEUの高官は、このような要求に対してリップサービスを行ってきたが、具体的な対応策はほとんど講じてこなかった。彼らは、景気の回復とポピュリズムの退潮を、当然のことと考えるべきではない。

本稿は、2017年8月23日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2017年9月28日掲載)を読む

脚注
  1. ^ Chapel Hill Expert Survey(CHES)に関する詳しい説明は、http://chesdata.eu.を参照。
文献
  • Colantone, I and P Stanig (2016), "Global Competition and Brexit," BAFFI CAREFIN Centre Research Paper No. 2016-44, Bocconi University.
  • Dippel, C, R Gold and S Heblich (2015), "Globalization and its (dis-) content: Trade shocks and voting behaviour," NBER Working Paper No. 21812.
  • Dustmann, C, B Eichengreen, S Otten, A Sapir, G Tabellini and G Zoega (2017), Europe's Trust Deficit: Causes and Remedies, Monitoring International Integration 1, CEPR Press.
  • Dustmann, C, F Fabbri and I Preston (2005), "The Impact of Immigration on the British Labour Market," The Economic Journal 115(507): F324-F341.
  • M, M Schularick and C Trebesch (2016), "Going to the extremes: Politics after financial crises, 1870-2014," European Economic Review 88: 227-260.
  • Inglehart, R and P Norris (2016), "Trump, Brexit, and the Rise of Populism: Economic Have-Nots and Cultural Backlash," HKS Working Paper No. RWP16-026.

2017年11月7日掲載

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