世界の視点から

ポピュリズム巻き返しの経済学

Dani RODRIK ハーバード大学教授

ポピュリズムはかなり前から台頭しており、今後もなくならないだろう。本稿では、経済史や経済理論に照らし合わせてみると、グローバル化に対するポピュリズムの反発は驚くことではないことを述べる。また、ポピュリズムの巻き返しを予想できたとしても、その個々のタイプについて予想することは難しく、社会がグローバル化の影響をどのように捉えているかに関わる。

ポピュリズムは最近の現象のように思われているかもしれないが、実はかなり長期にわたって高まりをみせている(図1)。オランダとフランスで最近行われた選挙では後退を示したものの、今後ポピュリズムが姿を消すとは考えにくい。世界の経済・政治秩序は転換期を迎えており、将来の方向性がどちらに転ぶかはわからない状態である。

図1:世界的なポピュリズムの台頭
図1:世界的なポピュリズムの台頭
注:出所と手法についてはRodrik (2017)を参照。

「ポピュリズム」は、多種多様な運動を内包する緩やかな標語である。この言葉の誕生は、米国で農民や労働者、炭坑作業員らが金本位制と北東部の銀行・金融体制に反発して結集した19世紀末までさかのぼる。ラテンアメリカには1930年代から続くポピュリズムの長い伝統があり、ペロン主義はその代表例である。今日のポピュリズムには広範な政治運動が含まれる。たとえば欧州では反EU・反移民を主張する政党が台頭し、ギリシャのスィリザやスペインのポデモスといった急進左派連合・左派政党が躍進した。また、米国ではトランプ大統領が反自由貿易・移民排斥政策を掲げ、ラテンアメリカではベネズエラのチャベス前大統領がポピュリズム的な経済政策を推進した。その他の地域でもポピュリズムの例は数多く見られる。すべてに共通しているのは、既存の体制に反発する態度、「エリートに異議を唱え、庶民の声を代弁する」という主張、そしてリベラルな経済とグローバル化への反感であり、(必ずではないが)ときとして権威主義的な統治の傾向がある。

ポピュリズムの巻き返しは多くの人にとって意外なことかもしれないが、経済学の歴史と理論に照らせば、必ずしも驚くに値しない。

まず歴史だが、前述した通り、金本位制におけるグローバル化の黎明期に、自己意識的なポピュリズム運動が史上初めて誕生した。貿易、金融、移民などに対する政治的な反発も程なく発生した。1870年代から1880年代にかけて農産物の価格が世界的に下落し、輸入制限の再開を求める圧力が高まった。英国を除くほぼすべての欧州諸国が、19世紀末にかけて農産品の関税を引き上げた。また、19世紀末には移民の制限も行われるようになった。1882年、米国の連邦議会は中国からの移民を標的にした、悪名高い中国人排斥法を可決した。1907年には日本からの移民も制限された。さらに、金本位制は与信環境を逼迫させ、農産品価格を押し下げる効果があると考えられていたために農民たちの怒りを買った。1896年の民主党全国大会における演説で、ポピュリズムの推進者ウィリアム・ジェニングス・ブライアンは「黄金の十字架に人々を磔にしてはならない」という有名な演説を行った。

貿易や金融統合に関する基本的な経済学の知識がある人にとって、グローバル化が政治的な議論を呼ぶということは、驚きではない。国際経済学者が用いる主要な経済学モデルは、強力な再分配効果を示すことが多い。最も著名な経済学の定理の1つであるストルパー=サミュエルソン定理は、貿易を開始すると分配に著しい影響が生じることを示す。とりわけ2つの財と2つの生産要素から成り、かつ生産要素が産業間を完全に自由に移動できるモデルでは、貿易開始後に、2つの生産要素のうちいずれかの所有者は、必然的に状況は悪化する。輸入可能な財に集約的に投入される生産要素は、実質収益が減少せざるを得ない。

ストルパー=サミュエルソン定理はかなり限定的な条件を仮定しているが、ストルパー=サミュエルソン的な結論の中でも、きわめて一般的なものを以下に示す。競争的な状況下で、輸入可能な財が国内で生産され続ける限り(すなわち、完全な分業を排除する限り)、貿易の自由化によって生産要素のうち少なくとも1つは必ず、状況が悪化する。換言すれば、貿易によって敗者が生まれるのである。再分配は、貿易で得られる利益の裏返しなのである。苦労なくして利益なし。

経済理論にはさらに別の含意があるものの、こちらはあまり認識されていない。関係する貿易障壁が相対的に小さくなれば、自由化による再分配効果が大きくなり、正味の利益を圧倒することになる。貿易自由化によって障壁が徐々に低くなれば、正味の利益に対する比率が上昇するのである。

理屈は単純だ。まず、比率の分母について考える。税の効率費用は税率の2乗に比例して増加するというのが、財政学の標準的な結論である。輸入税は輸入品に課される税金なので、同じ関数の凸性が関税にも当てはまる。関税が低ければ、歪曲効果も非常に小さい。関税が高ければ、悪影響もかなり大きくなる。したがって、障壁が小さくなれば、貿易自由化がもたらす効率性による利益は、段階的に小さくなる。一方で再分配の効果は、価格変化に関しておおむね直線的であり、障壁の大きさが変化しても限界的に不変である。これら2つの事実を組み合わせれば、先ほど述べた結論が得られる。すなわち、効率性向上によって得られる1ドルの利益によって、悪影響を受けるグループが被る損失は、障壁が下がるにつれ、大きくなるのである。

エビデンスは定理に基づくこれらの予測と一致している。たとえばNAFTAの場合、Hakobyan and McLaren(2016)によると、米国の労働者層の「重要な少数派」が非常に大きな悪影響を受けているという。またCaliendo and Parro(2015)の推計によると、NAFTAが米国経済にもたらす全般的な利益はごくわずか(0.08%の「厚生」利益)という。

原則として、貿易による利益は再分配できるので、敗者を補償し、特定のグループが置き去りにならないよう配慮することはできる。福祉国家が数多く誕生したことにより、欧州では貿易の自由化が大幅に進んだ。ところが、真の意味での経済自由化が比較的遅かった米国は、欧州と同じ方向には進まなかった。このことが、中国やメキシコといった一部の貿易相手国からの輸入が、米国内でことさら批判を浴びる理由かもしれない。

経済学者は、貿易が一部のグループに失業や所得減少をもたらすことを理解している。しかしながら、右派と左派双方のポピュリストがなぜ貿易をこれほど槍玉に挙げるのかを理解できずにいる。結局、輸入は労働市場に混乱を引き起こす原因の1つに過ぎず、通常は最大の原因ですらない。貿易がこれほどまでに政治的な注目を集める理由は何なのか? おそらく、貿易はスケープゴートにしやすいからだろう。しかし、貿易に起因する再分配が他の形態の競争や技術変化よりも大きな議論を巻き起こすのは、これ以外のより根深い問題による。国内の規範や社会合意に反するという理由で、国内では認められていない種類の競争が、ときとして国際貿易では行われている。このような「禁止された取引(blocked exchanges)」(Walzer 1983)が貿易によって可能になる場合、分配の正義という意味で難しい問題が生じる。人々の反感を引き起こすのは不平等そのものではなく、不公平感である。

金融のグローバル化は、経済全体に利益をもたらすという点で、おおむね貿易と似ている。しかし、金融のグローバル化に対する経済専門家の現時点での見方は、せいぜい賛否相半ばというところである。懐疑的な視線の大半が向けられている先は、金融危機やその他の過剰な事態と関連した、短期的な資金のフローである。長期的なフロー(特に海外直接投資)は、おおむね好意的に受けとめられている。海外直接投資は安定性が高く、成長の呼び水となる。一方で、海外直接投資は税制や交渉上の力関係を変化させ、労働者に悪影響を与えているというエビデンスもある。

資本流入に関わる景気の波は、以前から発展途上国で見られる現象である。世界金融危機以前、主に貧困国特有の問題だと考えられていた。制度と規制が整備されている先進諸国は、金融グローバル化による金融危機とは無縁と思われていたが、事実でないことが明白になった。米国では危機発生前の数年間に、すでに住宅バブル、過剰なリスクテイク、過度の借り入れが起こっていたが、海外からの資本流入がこれらの問題にさらに拍車をかけた。ユーロ圏では、地域規模での金融統合がさらに大きな役割を果たしていた。金利の一本化によって融資の拡大が後押しされたものの、米国で危機が発生した直後に信用が枯渇し、最終的にはギリシャ、スペイン、ポルトガル、アイルランドでは景気の急減速と長期的な不況に見舞われた。

さらに、金融グローバル化は、金融危機の発生頻度や重大性に及ぼす影響を通じて、各国内の分配にも悪影響をもたらしているようである。最も注目すべきは、Furceri et al.(2017)による最近の分析で、224回にわたる資本勘定の自由化に関する調査である。Furceriらによると、資本勘定の自由化によって、労働分配率が統計的に有意に、かつ長期的に低下していること、それに呼応して所得格差を示すジニ係数が上昇し、所得上位のそれぞれ1%、5%、10%の所得シェアも増加しているという。加えて、資本の流動化によって、税負担や経済的ショックの悪影響が、固定的生産要素である労働者へとシフトされているという。

ポピュリズムの巻き返しは予想できてもその具体的なかたちについてまで予想することは容易ではなかった。ポピュリズムにはさまざまなタイプがある。ポピュリズムを左派と右派に区別することは有用であるが、それぞれポピュリスト政治家が強調・重視する社会的分断の違いによって区別される。米国の進歩主義運動とラテンアメリカのポピュリズムの大部分は、左派タイプである。ドナルド・トランプ大統領と昨今の欧州でみられるポピュリズムは、(示唆に富む一部の例外を除いて)右派タイプである(図2)。反グローバル化において、右派対左派の構図が現れた理由は何だろうか?

図2:欧州とラテンアメリカで対照的なポピュリズムのパターン
図2:欧州とラテンアメリカで対照的なポピュリズムのパターン
注:出所と手法についてはRodrik (2017)を参照。

反応がこのように異なるのは、各社会がグローバル化の影響をどのように捉えているかに関わると思う(Rodrik 2017)。移民や難民といった形でグローバル化の影響が現れる場合、ポピュリスト政治家にとっては、民族国家的・文化的な分断を利用するほうが容易であり、欧州の先進諸国で広く見られる。一方、グローバル化の影響が主に貿易、資金調達、海外投資といったかたちで現れる場合、所得・社会階級を利用するほうが容易である。こちらは南欧やラテンアメリカのケースである。最近、両方の影響が顕著に見られる米国では、両方のタイプのポピュリズムが生まれている(バーニー・サンダースとドナルド・トランプ)。

ポピュリズムの台頭を需要面と供給面に区別することは重要である。グローバル化によって悪化する経済的不安と分配の問題は、ポピュリズムの基盤を生み出すが、必ずしも政治的な方向性を決定づけるものではない。どのような分断が相対的に目立っているのか、ポピュリズムの指導者が何を語るかによって方向性が定まり、人々の怒りを満足させるのである。この区別を見落としてしまうと、ポピュリスト政治をもたらす経済・文化的要因が果たすそれぞれの役割がわかりにくくなってしまうかもしれない。

最後に、これはグローバル化だけの影響ではないし、必ずしも最重要でもないということを強調しなければならない。技術変化、勝者総取り市場の台頭、労働市場保護政策の形骸化、賃金格差を制限する規範の衰退など、どれもが一定の役割を果たしている。こうした変化はグローバル化の影響をまったく受けないわけがなく、むしろグローバル化を促進してきたし、逆にグローバル化によって促進されてきた。そしてグローバル化の影響を小さくすることもできない。むしろ経済史と経済理論はいずれも、「グローバル化の段階が進むとポピュリズムの反発が起きやすくなる」と確信させる理由を提供してくれる。

本稿は、2017年7月3日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2017年8月31日掲載)を読む

参考文献
  • Caliendo, L, and F Parro (2015), "Estimates of the Trade and Welfare Effects of NAFTA," Review of Economic Studies, 82: 1–44.
  • Furceri, D, P Loungani and J D Ostry (2017), "The Aggregate and Distributional Effects of Financial Globalization," unpublished paper, IMF, June.
  • Hakobyan, S, and J McLaren (2016), "Looking for Local Labor Market Effects of NAFTA," Review of Economics and Statistics, 98(4): 728–741.
  • Rodrik, D (2017), "Populism and the Economics of Globalization", CEPR Discussion Paper No. 12119.
  • Walzer, M (1983), Spheres of Justice: A Defence of Pluralism and Equality, Martin Robertson: Oxford.

2017年11月6日掲載

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