世界の視点から

脱真実世界の政策分析

Charles MANSKI ノースウェスタン大学経済学部教授

正確さをうたった政策成果の予測と経済情勢の推定は習慣的に行われているが、これにともなう不確実性についての表現はほとんど見られない。本稿は、新政権発足を控えた米国を例に、過去の政策分析の「信頼できぬ確実性」(incredible certitude)など、今後経験することと比べると取るに足らない問題と化してしまうと述べる。信頼ならぬ確実性をもつ分析は、その予測と推定が真実である可能性もあるが、「脱真実(post-truth)」の世界における分析は、明らかに誤った予測と推定を生み出す。

どのような経済政策でも、その変更に伴う影響を推定することには不確実性を伴う。Alan Auerbachは次のように指摘している。「多くの場合、不確実性があまりに大きいため、ある数字を正直に報告したつもりでも実際にはその倍、あるいは半分にあたる推定値を報告していたという可能性もある」(Auerbach 1996)。まったく同感である。私はこの5年間、信じがたいほど確信をもって行われる経済政策分析の慣行が横行していることについて繰り返し批判してきた(Manski 2011a、2011b、2013、2014、2015)。特に、米国政府の公式な慣行について意見を述べてきた。正確さをうたった政策成果の予測と経済情勢の推定は習慣的に行われているが、測定における不確かさの表現はめったに見ない。しかし、予測と推定は裏づけのない仮定と限定的なデータに依拠し、根拠に乏しいケースが多い。そのため、正確さをうたった予測と推定の確実性に信憑性はない。

米国では現在、事実と作り話を区別する能力もしくはその意思に欠けているとおぼしき新大統領の政権発足を目前に控えている。過去の政策分析の信頼ならぬ確実性など、今後経験することと比べると取るに足らない問題と化してしまいそうなことに憂慮している。信頼ならぬ確実性をもつ分析の場合、その予測と推定が正しい可能性もあるが、「脱真実」の世界における分析は、明らかに誤った予測と推定を生み出すのである。

筆者の懸念を説明するため、まず現在の慣行に対する批判の一部を改めて述べたい。政策成果の予測値を検討するにあたり、審議中の法案が連邦債務へ及ぼす影響について、連邦議会予算局(CBO)の有力な予測値、いわゆる「スコア」に注目するよう呼びかけてきた。CBOの職員は専門公務員であり、連邦法の複雑な変更が予算に与える影響について予測することが困難なことを理解している。それでも米議会はCBOに対し、不確実性の尺度を伴わずに今後10年間の点予測を作成するよう求めている。

経済情勢の推定値については、商務省経済分析局、労働省労働統計局、商務省国勢調査局など主な連邦統計機関が発表した公式経済統計における信頼ならぬ確実性について示してきた。これらの機関は、GDP(国内総生産)成長率、失業率、家計所得の推定値を誤差の計測値を併記せずに発表している。各局の職員は、公式統計には標本誤差と非標本誤差が生じることを知っているはずだ。それにもかかわらず、標本誤差についてはごくまれに計測を行い、非標本誤差についてはまったく定量化せずに公式統計を発表することが慣行となってしまっている。

信頼ならぬ確実性が常態化した原因を探るにあたり、経済学者である筆者は、アナリストはインセンティブに反応しているという推察が自然だと考えた。多くの政策立案者や一般の人々が不確実性と直面したがらないため、アナリストは確実性を伝えようとしてしまう。ある経済学者の話がある。彼はリンドン・B・ジョンソン米大統領に、自らの予測についての不確実性について説明しようとした。彼は、予測の数値を「可能性のある数字の範囲(range)」として示しそうとしたが、ジョンソン大統領は、「放牧地(range)は牛のものだ。数字を1つだけ教えてくれ」と答えたという。

ジョンソン大統領は経済学者が予測する数字の範囲について聞きたがらなかったが、経済学者が考え得る範囲内の数字、おそらく範囲の中心の数字を1つ聞きたかったのだろう。経済学者は大統領の要請をそう解釈し、応じたのだろう。同様に、CBOのスコアと公式の経済統計を作成している政府の経済学者も、概してスコアが自ら考える予測の中心的傾向を示すようにしているのだろう。これらを裏付ける実証的エビデンスは、予測専門家調査(Survey of Professional Forecasters)で確認できる。これは、予測専門家から成るパネルのメンバーによるGDP成長率やインフレ率の点予測および確率予測を示したものである。これらのデータを分析すると、一般に点予測は確率予測の平均値か中央値に近いことがわかる(Engelberg et al. 2009)。

この先のことを思うと、来るトランプ政権における政策分析の慣行について深い懸念を感じずにはいられない。新大統領と真実との希薄な関係についてはすでに多方面で書かれており、ここで改めてその現象を取り上げるまでもない。代わりに、ワシントンポスト紙で最近、定期コラムを執筆し始めたRuth Marcusの明晰かつ恐ろしい文章を以下に引用したい(Marcus 2016)。

「脱真実の大統領を、覚悟して迎えたほうがいい。『事実は事実である』と述べたのは1770年、ボストン虐殺事件で罪に問われた英国兵士の弁護に立ったジョン・アダムスである。『それゆえ私たちの願い、私たちの性質、私たちの情熱が何を命じようとも、事実と証拠の状態を変えることはできない』と。あるいは、私たちもそう考えていた。まったく真実を顧みず、ファクトチェックを突きつけられても、ものともしない男を大統領に選ぶまでは。」

Marcusは続けて、トランプには真実を尊重すべきインセンティブがないと述べている。彼女はこう指摘する。

「脱真実の慣行、すなわち事実無根の主張に積み重なる事実無根の主張によって、ドナルド・トランプはホワイトハウスを手に入れた。彼が事実無根の放言を重ねるほど、支持者はトランプがありのままの事実を語っていると思い、彼に傾倒した」

新政権が今後政策分析をどう捉えていくつもりなのか、2つの点を懸念している。1つは、公式な経済統計の発表に不可欠である、定期的なデータ収集の予算が大幅に削減されることである。もう1つは、連邦機関で働くアナリストは、これまで政治的中立性と誠実さを高く評価されてきたが、今後、大統領の考えにあわせて調査結果を加工するよう圧力を受けるのではないかという懸念である。首尾一貫した政策議論は、以前にも増した党派的な統治環境下においてすでに難しくなっているが、基本的事実でさえも曲げられるとホワイトハウスが考えるようになれば、もはや不可能となるだろう。

潜在的な被害を軽減する建設的な方法としては、連邦政府の行政機関の外に、政策成果の誠実かつ十分な情報に基づいた予測と経済情勢の推定値を提供できる研究センターと統計機関を設立することが挙げられるだろう。おそらく連邦準備制度理事会や議会はそのために必要な情報の一部を提供できるはずだが、その部分は非政府組織が担うべきだと考える。現在、米国にはこのために必要な機関が存在しない。英国の財政問題研究会(Institute for Fiscal Studies)は適切な模範になるだろう。

誠実かつ十分な情報に基づいた政策分析の提供にいかに努めようとも、不確実性を直視してこそ我々の社会はよくなると、私は今なお信じている。対立する政策論議の多くは、ある部分、自らが知らない事柄を認めようとしない態度に起因している。すでに真実を知っているとか、真実を意のままに操作できるかのごとく振る舞うのではなく、まだまだ学ぶべきことはたくさんあると認めたほうがよい。

本稿は、2016年12月24日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2017年1月4日掲載)を読む

参考文献
  • Auerbach, A (1996), "Dynamic Revenue Estimation," Journal of Economic Perspectives 10: 141-157.
  • Engelberg, J, C Manski, and J Williams (2009), "Comparing the Point Predictions and Subjective Probability Distributions of Professional Forecasters," Journal of Business and Economic Statistics 27: 30-41.
  • Manski, C (2011a), "Policy Analysis with Incredible Certitude," The Economic Journal 121: F261-F289.
  • Manski, C (2011b), "Should official forecasts express uncertainty? The case of the CBO," 22 November.
  • Manski, C (2013), Public Policy in an Uncertain World: Analysis and Decisions, Cambridge: Harvard University Press.
  • Manski, C (2014), "Facing up to uncertainty in official economic statistics," VoxEU.org, 21 May.
  • Manski, C (2015), "Communicating Uncertainty in Official Economic Statistics: An Appraisal Fifty Years after Morgenstern," Journal of Economic Literature 53: 631-653.
  • Marcus, R (2016), "Welcome to the Post-Truth Presidency," Washington Post, 2 December.

2017年2月7日掲載

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