世界の視点から

テクノロジーと労働:デジタル革命によって変化する世界の雇用

Carl Benedikt FREY オックスフォード大学マーティンスクール マーティンプログラム共同ディレクター

Ebrahim RAHBARI シティグループ グローバル経済チーム ディレクター

1960年代にはコンピュータと自動化によって仕事が減り、余暇に費やす時間が増えると多くの人が思っていたが、その後、議論の方向性は変化していった。今日、経済学者は、技術革新によって雇用がどの程度失われるかについて注目している。本稿はテクノロジーによって省力化が進み、雇用が以前より創出されなくなってしまうのかを探る。少なくとも現時点においては、自動化によって大量の失業者が生まれるという懸念は、大げさなようである。

歴史的に見て、鉄道、自動車、電話といった革命的技術の出現は、一般的な労働者の雇用機会を大幅に拡大してきた。一方、今日のテクノロジー産業は昔の産業と比較すると、特に低学歴層に雇用機会を提供できていない。テクノロジー産業において創出できる雇用の減少傾向は、1980年代の「コンピュータ革命」以降、特に顕著である。Lin (2011) の推定によると、1980年代には米国の労働人口の約8.2%が技術進歩によって生み出された新規雇用にシフトしたが、1990年代になるとこの比率は4.4%にとどまった(注1)。またBerger and Frey (2015)によると、2000年代にネットオークション、ストリーミング配信、ウェブデザインなどのテクノロジー産業にシフトした労働者の比率は0.5%未満だった。さらに、Haltiwanger et al. (2014) によると、2000年代に米国のテクノロジー産業の活力は大幅に減速したという。

とは言え、デジタル技術が労働市場に与えてきた影響はきわめて大きい。Autor et al. (2003) が説得力を持って示したように、(所得分布の中間層に集中している)事務や製造など、幅広い範囲の定型的業務を人に代わってコンピュータが行うようになった。技能と所得分布の上位と下位で雇用が拡大したことに伴い、定型的業務の自動化は先進国全体で労働市場の空洞化をもたらした (Goos et al. 2009)。

例外はあるが、マケドニア、トルコ、メキシコ、マレーシアなどの途上国においてもすでに労働市場の二極化が起きている (WDR2016)。際立った例外は中国で、先進諸国が製造工程をオフショアリングしたため、中所得者層の雇用が急速に拡大した。ただし、産業化の波に乗って繁栄を手にする国は、中国が最後かもしれない。コンテナ船、コンピュータなど20世紀の技術革新がグローバルサプライチェーンの発展に大きく寄与し、人件費の安い地域に企業が生産拠点をシフトできるようになった一方、近年ではロボット工学と積層造形技術が進歩したことにより、先進諸国の企業は自国のオートメーション工場での生産に「回帰」しても、経済的な採算が採れるようになった。Rodrik (2015)によると、新興国では20世紀の間に製造業の雇用者数はピークから徐々に減少に転じたが、これは自動化の進展に伴う世界的なトレンドであり、新興国の将来的な雇用創出にとって大きな課題となっている。

一方、自動化できる職務の範囲は急速に拡大しており、今後もこの傾向は否応なく続くだろう。かつてコンピュータ化できる範囲は、コンピュータ言語で容易にコード化できる、明確で規則的な活動を伴う定型業務におおむね限定されていた。対照的に、近年の技術進歩によって幅広い非定型業務の自動化が可能になった。わずか10年前には自動運転や走り書きの判読などは想像すらできなかったが、現在では、自動化可能な作業の範囲内であると幅広く理解されている。

自動化できる範囲が拡大したことにより、各国の労働市場は転換点を迎えているようである。最近の研究によると、こうしたトレンドの影響で米国全体の雇用の約47%は自動化される可能性がある (Frey and Osborne 2013)。製造現場やバックオフィスだけでなく、物流・輸送、建設、販売・サービスなどの職業でも自動化に直面している。このように、かつては自動化の影響を受けてこなかった幅広い非貿易部門も、自動化にさらされている。Frey and Osborne (2013) の手法に基づいた世界銀行の推計によると、自動化によって雇用喪失の危機に直面している職種の割合は途上国の方が高く、OECD加盟国の57%に対し、中国77%、インド69%、エチオピアにいたっては85%と驚異的な水準である。

1人当たり国民所得と自動化によって失業する可能性の間には負の関係があり(図表1参照)、途上国は自動化の影響を比較的受けやすい状況にあるが (Citi and Oxford Martin School 2016)、だからといって途上国がすぐに自動化されるわけではない。人件費の高騰が自動化の動機となっており、先進諸国において比較的速いペースで自動化が進んでいる。一方で、途上国も影響を受けないわけではない。中国は今や世界最大のロボット市場であり、Citiの最近の推計によれば、回収期間は2年にまで短縮されている。

図表1
図表1

しかし、テクノロジーの影響で創出される雇用が減少し、省力化が進んでいるとすると、いまだに多くの職種が存在しているのはなぜか。

  • 第1に、自動化可能な職種のすべてが実際に自動化されているわけではない。セルフレジの普及が見込まれていたにもかかわらず、米国では今でも300万人以上がレジ業務を行っている。
  • 第2に、テクノロジー以外の要因も雇用創出に影響を及ぼす。重要なことに、1980年代のコンピュータ革命以降に創出された雇用のほとんどは、非テクノロジー分野の雇用である。

たとえばSpence and Hlatshwayo (2011) の推計によると、地域で消費される財・サービスを提供する非貿易部門は1990〜2008年に米国の雇用増加の98%を占めたとみられる。そのうちの40%程度は(市場動向に左右されにくい)政府機関および医療サービス分野の雇用である。また、小売、建設、食料品、宿泊業などの貢献も大きい。

  • 第3に、テクノロジーは他の分野にも多大な影響を及ぼした。

テクノロジーを駆使する専門サービス業などは、情報通信技術の進歩によって貿易できる職務となり、急速に拡大した。また、技術関連の職種は地域のサービス需要に大きな波及効果をもたらし、技術職種が1つ増えれば、地域の非貿易部門の新規雇用が約5つ生まれる(Moretti 2010)。

工場の自動化が進めば途上国でも製造業の雇用者数は減少し、今後の雇用創出は生産技術の向上に左右されることになろう。重要な点は、熟練技術を必要とする職種は自動化の影響を受けにくく (Frey and Osborne 2013)、 国内のサービス需要を押し上げるということである(Moretti 2010)。最近の研究によると、途上国では、熟練技術を必要とする製造業の職種が1つ増えることによる乗数は、非熟練の職種の場合に比べて少なくとも3倍の大きさで、ブラジルでは13、インドでは21である (Berger et al. 2016)。したがって、将来、テクノロジーが雇用機会を奪う可能性は排除できないものの、目の前に迫る脅威というわけではない。

結論

今日、テクノロジー部門で創出される雇用は以前と比べて減少しているが、地域経済における非貿易財需要を押し上げるため、雇用創出に及ぼす間接的影響ははるかに大きく、先進諸国が経験した製造業からサービス業への雇用シフトを説明するものである。したがって、バイオ企業やコンピュータ企業で生まれる雇用機会ではなく、こうした企業によって生まれる地域のサービス需要が雇用を左右するのである。実際、今ではテクノロジー産業の雇用への間接的影響はきわめて重要となっており、今後の雇用情勢はテクノロジー産業における雇用創出そのものよりも乗数の大きさが重要になると思われる。自動化の範囲が拡大すれば、非熟練サービス業もさらに自動化され、乗数は低下するが、同時に新サービスへの需要も生まれている。たとえば、LinkedIn上で急速に成長している職業はズンバのインストラクターとビーチボディのコーチである。技術変革によって省力化が進み、創出される雇用は減少しているが、自動化によって大量失業が起こるという懸念は、今のところは大げさなようである。

本稿は、2016年3月25日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2016年4月8日掲載)を読む

脚注
  1. ^ 2つの数値を単純に比較することはできない。新テクノロジーによって創出される雇用の割合を推定する上で、測定上の問題があるからだ。いずれにせよ、推計値は創出される雇用の減少を示唆している。
参考文献
  • Autor, D, F Levy, and R J Murnane (2003), "The skill content of recent technological change: An empirical exploration," The Quarterly Journal of Economics 118(4): 1279–1333.
  • Berger, T and C B Frey (2015), "Industrial Renewal in the 21st Century: Evidence from U.S. Cities," Regional Studies, forthcoming.
  • Berger, T, C Chen and C B Frey (2016), "Industrialization, Cities and Job Creation: Evidence from Emerging Economies," Mimeo.
  • Citi and Oxford Martin School (2016). Technology at Work v2.0: The Future Is Not What It Used to Be.
  • Frey, C B and M Osborne (2013), "The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerisation?," Oxford Martin School Working Paper No. 7.
  • Goos, M, A Manning and A Salomons (2009), "Job Polarization in Europe," The American Economic Review 99(2): 58–63.
  • Haltiwanger, J, I Hathaway, and J Miranda (2014), "Declining business dynamism in the US high-technology sector," The Kauffman Foundation.
  • Lin, J (2011), "Technological Adaptation, Cities and New Work," Review of Economics & Statistics 93(2): 554-574.
  • Moretti, E (2010), "Local Multipliers," American Economic Review 100(2): 373-77.
  • Rodrik, D (2015), "Premature Deindustrialization," National Bureau of Economic Research (No. w20935).
  • Spence, M, and S Hlatshwayo (2012), "The evolving structure of the American economy and the employment challenge," Comparative Economic Studies 54(4): 703-738.
  • WDR (2016), "Digital Dividends," World Bank Development Report 2016.

2016年5月27日掲載

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