世界の視点から

高学歴女性の出生率は低くない

Moshe HAZAN テルアビブ大学講師

Hosny ZOABI モスクワ・ニュー・エコノミック・スクール助教

女性活躍を推進する政策への対応という意味もあり、経済学者の間では、女性のキャリア・学歴と出生数との関係についての関心が高まっている。本稿では、エビデンスを検証した結果、1990年代には米国の高学歴女性は学歴の低い女性に比べて出産する子どもの数が少なかったが、近年はその関係が見られなくなっていることを示す。

これまで高学歴の女性は、そうでない女性より出産する子どもの数が少なかった(Jones and Tertilt 2008)。社会学者や経済学者はこの関係を証明しようと多くの理論を提示してきた。代表的な説明は育児とキャリアの両立の難しさ(Mincer 1963, Galor and Weil 1996)、育児の量と質のトレードオフ(Becker and Lewis 1973, Galor and Weil 2000, Hazan and Zoabi 2006)である。現在、大半の先進国において女性は男性より高学歴である(Goldin et al. 2006)。さらに、より権威・難易度の高い仕事に就く女性が増えており、政策にも後押しされている。たとえば、欧州委員会(EC)は2012年、意思決定を行う役職にある女性に関する特別報告書を発表し、企業の取締役会における男女比が均衡するよう、法整備を勧告した。ノルウェーやフランス、イタリア、ベルギー、オランダなどはすでにその方向で法的措置を講じている。女性の学歴と出生数との間のクロスセクションの関係が不変な場合、女性が高学歴化し、より高度な職業に就くようになると、出生率は現在の低い水準からさらに低下し続けるだろう。

しかし、我々は(Hazan and Zoabi 2015)、たしかに1990年代までは高学歴のアメリカ人女性が産む子どもの数は学歴の低い女性と比べると少なかったが、近年はそうではないとの結論を得た。2000年代には、むしろ高学歴の女性のほうが、中程度の学歴の女性よりも出生率が高かった。重要なことは、これが修士以上の学位を持つ女性の出生数の大幅な増加に起因するという点である(0.7人、50%以上の増加)。このことは、1980年と2001~2011年の出生率と女性の学歴との横断的関係を示した図1に示されている。

図1:女性の学歴別の出生率(1980年と2000年代)
図1:女性の学歴別の出生率(1980年と2000年代)

高学歴女性の労働力供給が過去最大の増加となった2000年代に、高学歴女性の出生数が増えたのはなぜだろうか? 我々は、過去30年間に所得格差が拡大したことによって、家事・育児の代行サービスを利用できる経済的余裕のある女性グループと、このようなサービスを安い金額で提供しようという女性グループが生まれたことが理由だと考える。

このことを検証するため、1983~2012年の3月に毎年実施された人口動態調査(CPS)のデータを使用した。「保育サービス」業界の平均時給を週別、年別に推定し、さらに、給与所得があったと回答した25~50歳の女性の時給を算出した。図2は、5つの各学歴グループにこの変数の平均値を当てはめたものである。図によると、大学中退以下の女性にとって保育は相対的に割高となったが、学部以上の学位を持つ女性にとっては相対的に割安になっている。定量的に変化が大きいことに留意したい。過去30年間に、相対的な保育費用は高校中退、高卒、大学中退の女性でそれぞれ33%、16%、5%上昇した。対照的に、相対的な保育費用は大卒女性で9%、修士以上の学位をもつ女性では16%近く低下している。

図2:学歴別5グループの平均賃金に対する保育業界の平均賃金率の対数線形予測(1983~2012年)
図2:学歴別5グループの平均賃金に対する保育業界の平均賃金率の対数線形予測(1983~2012年)

このミクロデータを活用するため、従属変数として、特定の年に特定の州に住むある女性がその年に出産した場合は「1」、そうでない場合を「0」とする二値変数を用いた回帰モデルを作成した。保育業界の労働費用をその女性の賃金で割ったものを主に使用して回帰分析を行った。この結果、保育費用の指標と出産の確率との間には統計学上きわめて有意で、経済的に大きな負の相関関係があることがわかった。実証分析の結果、保育の相対費用の変化によって高学歴女性の出生数が増加した理由の約3分の1を説明できることがわかった。我々は、この相関関係が女性の労働参加の選択や賃金の内生性、過去30年間の特定の年によって生じたものではないことを証明するため、一連のテストを行った。

図3:実際の出生率と1980年代の保育価格を仮定した場合の出生率(2001~2011年)
図3:実際の出生率と1980年代の保育価格を仮定した場合の出生率(2001~2011年)

図3は、上述の回帰モデルの推定値を用いて、1983~1985年の保育の相対費用に基づき、2001~2011年の仮定の出生率を示している。大学中退女性のグループを軸に実際の出生率曲線を時計回りに回すと、仮定の出生率曲線とちょうど重なることがわかる。

有料保育サービスの直接的なエビデンスはこれと一致している。図4は、1990年と2008年の25~50歳の女性が有料保育を利用する週あたりの平均時間を示している。この図には明確な特徴が2つある。まず、どちらの年においても女性の学歴が上がるにつれ、有料保育の利用時間が増加していること。2番目に、1990~2008年の間、大学中退女性では有料保育の利用時間に変化はみられないが、高学歴女性では、利用時間が大幅に増加している点である。

図4:25~50歳の女性による有料保育の利用時間(週平均)
図4:25~50歳の女性による有料保育の利用時間(週平均)

さらに、我々はこれ以外に原因となりうる点を排除した。まず、女性の時間が子どもと市場労働との間で代替される可能性を排除した。労働時間は女性の学歴に伴って増加することを示したが、出産する女性は毎年ほんの一部であり、女性は出産後1年間、まったく働かないかもしれない。この可能性を排除するため、過去1年以内に出産した女性グループにおいても労働時間は学歴が上がるにつれて増加することを示した。また、過去1年間に出産した女性の学歴と労働力供給との正の相関関係は未婚女性によって生じたものであり、出産の大部分を占める既婚女性のグループでは正反対になるとの主張もあるだろう。このため我々は、過去12カ月間に出産した女性は既婚、未婚双方のケースで、学歴が高いほど労働力供給が多いことを示した。

2番目の説明は、学歴が異なるグループ間で婚姻率が異なる可能性である。既婚女性の出生率がより高く、また高学歴の女性ほど婚姻率が高いのであれば、より高学歴の女性の出生率が高い原因は市場労働のためではなく、単に婚姻率の高さによるということになる。しかし、修士以上の学位を持つ出産適齢期の女性よりも大卒女性の婚姻率のほうが高いことから、これは当てはまらないということがわかった。

3番目の説明は、配偶者の子育てへの貢献に関わるものである。たとえば、高学歴女性の夫は、学歴の低い女性の夫より育児を分担する傾向が強いかもしれない。これについては、大卒女性の夫が子どもと過ごす時間は、学歴の低い女性の夫と比較して週当たり30分間長いにすぎないこと、また、修士以上の学位を持つ女性は大卒女性より出生率が高いものの、その夫が子どもと過ごす時間は大卒女性の夫より逆に少ないことがわかった。

図5:35~39歳、40~44歳、45~49歳の各年齢グループの米国白人女性1000人当たりの出生数:修士以上の学位を持つ女性(2001~2011年)と過去の出生率
図5:35~39歳、40~44歳、45~49歳の各年齢グループの米国白人女性1000人当たりの出生数:修士以上の学位を持つ女性(2001~2011年)と過去の出生率

最後は、最新の生殖補助医療の進歩に関わるもので、これによって女性が妊娠・出産を諦めることなく、長期間学業に専念できるという説明である。3つの点からこの可能性について検証した。

  • まず、過去の35歳以上の女性の出生率(1920年)は2000年代より高かったことがわかった(図5を参照)。

これは、高学歴女性の出生率が過去に高くなかったのは医学的理由からである、という主張と矛盾する。

  • 2番目に、2000年代の出生数のうち、生殖補助医療によるものは1%に満たない。
  • 最後に、米国では15の州において不妊女性に適用される不妊保険法がある。

我々は、この15の州と他の州の女性の学歴別の出生パターンを比較し、2000年代には出生率に差がないことを示した。

結論

本研究の結果はいくつかの点を示唆している。公共政策に関しては、移民推進政策の潜在的メリットを浮き彫りにする。未熟練の移民は、廉価な家事代行の供給を増やすことで出生率にプラスの影響を与える可能性がある。高齢化と人口減少に直面している多数の先進国にとって考慮すべき点である。また、経済成長にも影響する。両親の学歴と子どもの教育には強い相関性があるため、高学歴世帯の子どもが相対的に増加するということは、次世代が相対的により高学歴になることを意味する。これは経済成長にとってプラス材料である。

本稿は、2015年12月11日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2016年1月6日掲載)を読む

2016年2月12日掲載
参考文献
  • Becker, G S and G H Lewis (1973), "On the interaction between the quantity and quality of children," Journal of Political Economy 81: S279-S288.
  • Galor, O and D N Weil (1996), "The gender gap, fertility, and growth," American Economic Review 86(3): 374-387.
  • Galor, O and D N Weil (2000), "Population, technology, and growth: From Malthusian stagnation to the demographic transition and beyond," American Economic Review 90(4): 806-828.
  • Goldin, C, L Katz, and I Kuziemko (2006), "The homecoming of American college women: A reversal of the college gender gap," Journal of Economic Perspectives 20(4): 133-156.
  • Hazan, M and H Zoabi (2006), "Does longevity cause growth? A theoretical critique," Journal of Economic Growth 11 (4): 363-376.
  • Hazan, M and H Zoabi (2015), "Do highly educated women choose smaller families?," Economic Journal 125(587): 1191-1226.
  • Jones, L E and M Tertilt (2008), "An economic history of fertility in the U.S.: 1826-1960" in P Rupert (ed.) Frontiers of Family Economics, pp. 165-230, Emerald.
  • Mincer, J (1963), "Market prices, opportunity costs, and income effects" in C F Christ (ed.) Measurement in economics: Studies in mathematical economics and econometrics in memory of Yehuda Grunfeld, Stanford University Press, pp. 67-82.

2016年2月12日掲載

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