世界の視点から

都市の再生と都市の土地プレミアム

Henri De GROOT VU アムステルダム大学 教授

Gerard MARLET Atlas voor gemeenten ディレクター

Coen TEULINGS ケンブリッジ大学 教授

Wouter VERMEULEN オランダ経済政策分析局 プログラムマネージャー

ほんの数十年前まで、多くの人が「都市の死」について論じていた。今日、多数の都市は経済活動の中心地として浮上している。本稿は、こうした現象が人的資本のスピルオーバー効果と集積効果によるものと論じる。特定の都市に人気が集中する理由は、それらの都市が革新的な企業や教育水準の高い優秀な人材にとって魅力的だからである。ただし、優秀な人材が集まる場所は少ないため、そうした場所の地代は高くなる。

「都市の死」の終わり

40年前、アムステルダムの中心部では大規模な不法占拠運動が定着していた。左翼急進主義の表現というよりは、アムステルダムの荒廃によるものであった。25年間にわたる人口減少の後、多くの空きビルの有効な使い途はなかった。同じ頃、ニューヨークのタイムズスクエアには風俗店が集まっていた。単に、空きスペースの他の使い途がなかったのである。人々が「都市の死」について論じていた時代である。電話とファクスで長距離通信が容易になり、物理的距離など無関係に思える時代に、現代人が過密な都市に集結する理由はあるのだろうか。この2つの話は、過去40年間に都市の可能性が大転換した例であり、Edward Glaeser (2011)の"Triumph of the City(都心の勝利)"に鮮やかに描かれている。アムステルダムの不法占拠運動は、住宅やオフィス需要の急増に伴い下火となった。タイムズスクエアは、いまやニューヨークの劇場地区の活気あふれる中心街となっている。

運命の逆転の理由

予期せぬ運命の逆転はどのように説明できるか。インターネットが物理的距離の「袋小路」を左右していると思われるこの時代に、経済活動の中心地として都市が浮上している理由は何か。これは、我々が新著"Cities and the Urban Land Premium(都市と都市の土地プレミアム)"の中で提起している論点である。すなわち、人的資本のスピルオーバー効果と集積効果について、複数の研究者が同じ方向性を示す著作を行っている。Gennaioli et al (2014)は、各国内のほんの一部の地域に、どのように人的資本が集積するかを示している。こうした集積による地域における1人当たりGDPのプレミアムは、平均的な教育水準の上昇による効果よりも、年率で20%以上高い。この収益率は、これまで推計されてきた人的資本の私的収益率をはるかに上回るものである。Desmet and Rossi-Hansberg (2008)は、汎用技術の役割に着目している。1920年代、1930年代においては電気、1990年以降は情報技術である。いずれの時代も、汎用技術の恩恵を最大限に受けられる産業が都市に移動し、新しいアイデアの普及を促してきた。人的資本の成長は20世紀の経済的奇跡の鍵であったが、賢人と教育水準の高い人が都市に集まってきてこそ、資本の果実を収穫できるのである。すなわち、都市の繁栄と知識経済とは密接に関連しているのである。

  • 現代経済においては知識のスピルオーバーが重要な役割を果たすが、優秀な人材が集まる場所は少なく、このような場所は地代が高い。意外にも、人的資本に対する社会的利益は、都市における高い地代という形で支払われる。

オランダでは、アムステルダムとロッテルダムで1960年から1980年の間に人口が25%減少した。アムステルダムは教育水準の高い人の中心地として再浮上できたが、ロッテルダムはいまだに低迷状態にあり、これは米国におけるボストンとデトロイトの運命の違いと似ている。

  • 逆説的なのだが、特定の都市に高い教育水準の人が集まると、他の場所には人がいない状態がOECD諸国全体でおこっており、人気のある特定の場所では土地が不足してしまう。

このため、GDPに占める地代の割合が上昇する。これは、住宅サービスの提供において、土地と建築物の間の代替弾力性が1未満であるためである(オランダについてはTeulings et al 2015、米国に関してはAlbouy and Ehrlich 2012 を参照)。したがって、都市の地代の上昇は、地方における地代の下落を補って余りある。知識のスピルオーバーによる集積の効果は、実質収益率の低下傾向(「長期停滞」に関する議論を参照)以外にも、Thomas Piketty (2014) が"Capital in the 21st Century(邦訳『21世紀の資本』)"で述べているような、多くの先進諸国で資本ストックに占める住宅の割合が上昇しているという現象を説明しうる1つの主な要因である。

外部性と地代

知識のスピルオーバーは、都市が場所による外部性の中心であることを意味している。地代はこうした外部性を反映している。ある場所の地代が高い理由は、その場所自体の特性によるものではなく、その場所の近くで何が起こっているかによる。これは外部性の良い例で、土地の価値は隣接する土地の所有者の行動に左右される。このような外部性は、都市レベルの公共政策立案についての教科書的な議論、またHenry Georgeが提唱した地価税が最も効率的である理由を提供するものである。実際、ある都市の地代の差額総額は、都市が生み出す外部性の優れた評価手段であることを示すことができる。また、公共交通サービスの貢献の評価も可能になる。我々は、オランダでは、これらの外部性がGDPの約3%を占めることを示している。

歴史が示すように(たとえば、前述したデトロイトで起きたことやアムステルダムやロッテルダムの人口減少を参照)、現在の成功は将来を保証するものではない。これはジブラ法則で説明できるもので、成長率は現在の規模とは無関係である。つまり、将来の成長は過去の成功とは無関係である。潮流に逆らおうとする政策立案者にとって成功の可能性は小さい。政策を成功させるには「流れに乗る」ことが必要である。衰退しつつある都市で大規模なインフラ投資を行うことは、実需を満たすことにはならず、地元の住民にとって大きな財政負担となり、さらに魅力のない都市にしてしまう。一方、成長中の都市においては、政策によって変化をもたらすことができる。上位人気都市であり続けるために、政策立案者が目指すべき都市の姿は2つある。

  • 第1に、革新的な起業家や企業が会社を置きたいと思えるような魅力的な都市
  • 第2に、教育水準の高い、優秀な人材が住みたいと思えるような魅力的な都市

都市の魅力を高める2つの要素のうちどちらが重要かを分析する手段として、地代は優れている。雇用機会が地代の決定において最重要な場合は、第1の要素が都市の成功を左右する最も重要な決定要因となる。消費アメニティが最も重要な場合は、高学歴層にとって魅力的な生活環境を提供することが成功の鍵である。

これはまさに我々が"Cities and the Urban Land Premium"の中で行った分析である。オランダのような小さな国の中でさえ住宅不動産の地代には大きな開きがあり、ドイツとの国境に近い北東部では1平方メートル当たり17ユーロだが、アムステルダムの運河地区では3500ユーロである。この開きを説明する上で、雇用機会と消費アメニティのそれぞれの寄与度は、平均すると大体同程度である。いずれも地代の差の約35%を説明する。ただし、この割合はあくまでも平均値に過ぎない。消費アメニティの分布は極めて偏っている。オランダで圧倒的に成功している都市であるアムステルダムに注目すると、雇用機会よりも消費アメニティが、アムステルダムの成功を説明する上ではるかに重要な役割を果たしている。特に、歴史的価値のある運河地区や活気あふれる文化的生活は、アムステルダムをオランダ内外から優秀な人材を引き付ける最先端の都市にしている。この結論は、賃金の地域差はむしろ小さいという、賃金に関する証拠に裏付けられている。アムステルダムの消費アメニティは、そこに住むために支払わねばならない高い地代を人々が受け入れる理由になっている。起業家は、これを補完するために高い賃金を支払う必要はない。

本稿は、2015年6月21日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2015年8月4日掲載)を読む

2015年8月24日掲載
参考文献
  • Albouy D and G Ehrlich (2012), "Metropolitan land values and housing productivity," NBER working paper 18110, Cambridge MA.
  • Desmet K and E Rossi-Hansberg (2008), "Spatial growth and industry age," Journal of Economic Theory, 144, 2477-2502.
  • Gennaioli N, R La Porta, F Lopez-de-Silanes, and A Shleifer (2014), "Human capital and regional development," Quartely Journal of Economics, 128, 105-164.
  • Glaeser, E (2005), "Reinventing Boston: 1640-2003," Journal of Economic Geography, 5, 119-153.
  • Glaeser, E (2011), Triumph of the city; How our greatest invention makes us richer, smarter, greener, healthier, and happier, Macmillan, London.
  • de Groot, H, G Marlet, C Teulings and W Vermeulen (2015), Cities and the Urban Land Premium, Edward Elgar, Cheltenham.
  • Piketty, T (2014), Capital in the Twenty-First Century, Belknap Press, Cambridge, MA.
  • Teulings, C, I Ossokina, and H de Groot (2014), "Welfare benefits of agglomeration and worker heterogeneity," CEPR Discussion Paper 10216, London.

2015年8月24日掲載

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