世界の視点から

アップルの「代理店モデル」によって電子書籍の価格は上昇するのか?

Øystein FOROS ノルウェー経済経営大学教授

Hans Jarle KIND ノルウェー経済経営大学教授・CESifo研究員

Greg SHAFFER ロチェスター大学教授

アップルが採用した「代理店モデル」による再販売価格の決定方法が大きな議論を呼んでいる。競争当局は「代理店モデル」によって小売価格が上昇することを懸念している。アプリの世界では、再販価格の指定によって価格は低下し、イノベーションや企業家精神が刺激される。しかしながら電子書籍の場合、アップルの参入によって価格が上昇した。本稿ではその理由について分析する。

アップル、アマゾン、グーグルは、電子書籍やアプリの市場において下流部門に位置する大手小売企業である。アップルは「代理店モデル」を採用し、バリューチェーンにおける出版業者との垂直的な関係を調整しようとした。

「代理店モデル」の課金方式では:

  • アップルは、単位当たりの卸売価格は支払わない。その代わりに、売上高の70%を上流部門のコンテンツプロバイダ(出版社)が、残り30%を手数料としてアップルが受けとる。
  • 「70/30ルール」は上流部門の企業の規模に関わらず一律に適用され、大手出版社マクミランも規模の小さい無名の出版社も同様に扱われる。
  • さらに重要な点は、このモデルでは、出版社側が価格決定権を持つことである。

「代理店モデル」の再販価格維持的な側面は議論の的になっており、競争当局をはじめ関係者の間では、小売価格の上昇を危惧する声が聞かれる。

米国の反トラスト当局は、アップル参入後、電子書籍販売で「代理店モデル」の採用が急速に拡がったのは、アップルと大手出版社5社による「暗黙の共謀」の結果であると推測している(Manne 2013、Bobelian 2013等参照)。また、アマゾンが、従来の「卸売モデル」から「代理店モデル」に変更するよう、電子書籍出版社大手によって事実上強制されたとも言われている。

出版社側の「暗黙の共謀」が小売価格を上昇させることは明白だが、アップルが参入している産業において再販価格指定自体が反競争的な行為かどうかは自明ではない。実際、(常に70/30ルールを適用しているにもかかわらず) アップルは必ずしも再販価格指定を歓迎しているわけではない。アップルがiTunesで音楽市場に参入した当初、スティーブ・ジョブズは小売価格を1曲99セントに決定し、価格について音楽出版社が口を出す余地を与えなかったのはその良い例である。

Foros, Kind and Shaffer (2013)で我々は、以下の疑問を提起した:

  • アップルのように影響力のある企業が、コンテンツプロバイダに小売価格の決定権を委譲してしまったのはなぜか。
  • 業界全体で「代理店モデル」が採用されるかどうかを左右する要因は何か(アップルとアマゾンの両社が自発的に電子書籍に「代理店モデル」を採用する)。
  • ある産業において1社あるいは複数の小売業者が「代理店モデル」を採用した場合、小売価格の調整に関する最恵国(MFN)条項はどのような役割を果たすのか。

小売価格決定権をコンテンツプロバイダに委譲するのはなぜか

コンテンツプロバイダは自社の製品の市場での将来性について、小売業者より豊富な知識を持つケースが多い。この場合、コンテンツプロバイダに価格を決定させることで効率性が向上する可能性もある(Foros, Kind and Hagen 2009)同様に、コンテンツプロバイダの自律性を高めることによって企業家精神やイノベーションを促進できるかもしれない。

Foros, Kind and Shaffer (2013)において我々は、意図的に非対称な情報を抽出し、市場に出回る製品の数と品質を不変と仮定した。上流部門、下流部門それぞれ、競争がある場合のモデルを設定した(図1参照)。(たとえば前述の70/30ルールのように)収益が一定に分配される場合、下流部門の企業(アップルやアマゾン、グーグルなどのプラットフォーム企業)が小売価格を決定するケースと、上流部門の企業(コンテンツプロバイダ)が小売価格を決定するケースの結果を比較した。後者が、いわゆる「代理店モデル」である。

図1:上流部門の企業とはコンテンツプロバイダのことで、電子書籍の場合の出版社、アプリストアの場合はアプリ開発業者を指す。下流部門の企業とはアップル、グーグル、アマゾン等のプラットフォーム企業を指す
図1:上流部門の企業とはコンテンツプロバイダのことで、電子書籍の場合の出版社、アプリストアの場合はアプリ開発業者を指す。下流部門の企業とはアップル、グーグル、アマゾン等のプラットフォーム企業を指す

一般的に、再販価格指定は競争を排除するという印象を与える議論が多い。しかし、事実に反している。再販価格指定は、競争の現場を下流部門から上流部門にシフトさせるだけである。したがって、「下流部門よりも上流部門の競争圧力が弱い場合にのみ、代理店モデルは価格を上昇させる効果を持つ」という推測が合理的である。この点は、Foros, Kind and Shaffer (2013)において厳密に証明済みである。つまり、他の条件が同じであれば、下流部門の企業は上流部門における競争圧力が相対的に弱い場合に「代理店モデル」を選択すると考えられる。

アップルのApp StoreやグーグルのGoogle Playの場合、上流部門の多数の中小企業(アプリ開発企業)がしのぎを削っているのは明らかである。したがって、再販価格指定はむしろ小売価格を引き下げる可能性が高く、低価格が減益をもたらしているというアプリ開発企業の大きな不満とも一致する(Boudreau 2012)。つまり、アップルやグーグルなどのプラットフォーム企業が小売価格決定権をコンテンツプロバイダに委譲することが反競争的行為にあたる、とは言えないだろう。再販価格指定の最大の動機は、価格の吊り上げではなく、企業家精神の促進にあると推測できる。

では、電子書籍はどうだろうか。再販価格指定によって本当に電子書籍の価格は上昇するのだろうか。アプリのケースとは異なり、電子書籍市場では、再販価格指定のある場合、ない場合の価格をある程度比較できる。アップルがiBookstoreにおいて電子書籍販売に参入する以前は、下流部門の企業が紙の書籍、電子書籍両方の小売価格を決定していた。しかし、アップル参入後の2010年春、電子書籍業界は急速に「代理店モデル」へと移行した。実際、価格は上昇した。

米司法省の主張によると、アップルが再販価格指定を採用した動機は、アマゾンによる電子書籍の低価格設定に終止符を打つことだという、出版社らの言うところの「9.99ドル問題」である。アプリの場合と比べ、電子書籍市場の上流部門は比較的少数の出版社によって構成されている。とは言え、電子書籍販売において上流部門のほうが下流部門よりも競争圧力が弱いとは言えない。グローバルな規模で電子書籍を販売している大手プラットフォーム企業はアップルとアマゾンの2社のみだからである(アマゾンのタブレットでアップルの本を読むことは容易ではない)。

では、なぜ価格は上昇したのだろうか。おそらく、出版社が紙の本から得られる利益を守ろうとしたことが原因だろう。紙の本と電子書籍とが代替可能な商品であれば、電子書籍市場の競争が下流部門(書店)より上流部門(出版社)においてより厳しい場合でも、「代理店モデル」への移行によって価格は上昇する可能性がある。つまり、再販価格指定が価格の上昇を招いたのではない。不完全な代替品(紙の本)を扱う市場から大きな利益を得ていることから、電子書籍市場で激しい競争を望んでいない出版社側に価格決定権が委譲されたことが価格上昇の原因である(Abhiskek et al 2013参照)。同様に、電子書籍に関してアマゾンが低価格戦略を採っていた背景には、電子書籍リーダーのKindleの販売を拡大したいという思惑があった(Gaudin and White 2013参照)。ジョブズがアマゾンの低価格戦略への同調に難色を示したのは、アップルは、アマゾンほど電子書籍リーダー(iPad)の販売を促進する必要性を感じていなかったことを示している。

プラットフォーム企業が「代理店モデル」採用を決定する要因は何か

2010年春、電子書籍業界は急速に「代理店モデル」へと移行した。米国の反トラスト当局は、アマゾンが「代理店モデル」を採用するよう、アップルと大手出版社に圧力をかけられていたと推測した。しかし、Foros, Kind and Shaffer (2013)で我々は、「代理店モデル」への移行によって業界全体の利益が拡大するのであれば、つまり下流部門よりも上流部門の競争圧力が弱い場合、業界全体がバランスをとって「代理店モデル」への移行が起きる可能性を示した。ただし、上流部門での競争が十分弱い場合、下流部門の企業は「代理店モデル」から一方的に撤退したいというインセンティブがあることは重要な点である。逆説的であるが、上流部門の競争が弱い場合にこそ、再販価格指定によって得られる業界の利益が大きくなるのである。しかし再販価格が高い場合、下流部門の企業は自社だけ価格を下げて競争相手を出し抜きたいというインセンティブを持つ。

それでは、このような「囚人のジレンマ」を避けるために、スティーブ・ジョブズが選択できた手段とは何だろうか? ここでMFN条項が登場する。

アップルのMFN条項が果たす役割は何か

アップルは電子書籍市場に参入するにあたり、契約に小売価格の調整に関するMNF条項を盛り込んだ。MFN条項により、出版社がアップル以外の小売業者に対して価格決定権を有しているか否かにかかわらず、アップルの小売価格を他の小売業者より高く設定することはできなくなる(つまり、アマゾンが独自に販売価格を決定している場合も、出版社はアップルの販売価格をアマゾンより高く設定できない)。

Johnson (2013 a, b) は、「代理店モデル」が業界全体で採用されている場合、価格はMFN条項に影響されないと言う。その場合、出版社間の競争圧力のみによって小売価格が決定されるからである。さらに、MFN条項は小売業者の交渉上の立場を強くし、より高い手数料を要求できるようになるとの指摘は興味深い。この点は、電子書籍市場において上流部門の出版社は、平均的なアプリ開発企業に比べて規模も大きく、アップルに対する交渉の立場も強いにも関わらず、アップルが販売額の30%を手数料として得られている理由かもしれない。しかしアップルは、どの市場でも70/30ルールを適用していることから、その評判を背景に、いずれにせよ30%の手数料を主張できるだろう。Foros, Kind and Shaffer (2013)で我々は、下流部門の小売業者が受けとる手数料を不変と仮定し、上流部門の出版社間の競争が弱く、前述の「囚人のジレンマ」が生じるケースを検討した。さらに、ライバル社(アマゾン)が「代理店モデル」を採用しない場合も、アップルとアマゾン両者が「代理店モデル」を採用した場合と同じ均衡価格に落ち着くことが、MFN条項によって保証されるしくみを示した。興味深いことに、アマゾンが出版社に価格決定権の委譲を「強制」する必要はなかったことが示唆された。アップルがMFN条項を導入したため、アマゾンにとって「代理店モデル」を採用しない理由が無くなってしまっていたに過ぎないのである。

本稿は、2013年11月14日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2013年11月20日掲載)を読む

2013年12月4日掲載
参考文献
  • Abhishek, V, K Jerath and Z J Zhang (2012), "To Platform Sell or Resell? Channel Structures in Electronic Retailing", working paper.
  • Bobelian, M (2013), "DOJ's Victory Over Apple May Turn Out To Be A Pyrrhic One", Forbes.
  • Boudreau, K J (2012), "Let a Thousand Flowers Bloom? An Early Look at Large Numbers of Software App Developers and Patterns of Innovation", Organization Science, forthcoming.
  • Department of Justice (DOJ) (2012), "US v. Apple", Inc. et al, April 11, 2012.
  • Foros, Ø, H J Kind and G Shaffer (2013), "Turning the Page for Business Formats for Digital Platforms: Does Apple's Agency Model Soften Competition?", CESifo Working Paper Series No. 4362.

2013年12月4日掲載

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