世界の視点から

スウェーデンと福祉制度

Lars VARGÖ 駐日スウェーデン大使

スウェーデンは人口950万人、人口規模では小さな国である。しかしながら国土面積は、欧州最大規模で、鉄鉱石や広大な森林等の天然資源にも比較的恵まれている。また、先進工業国として、かなり早い段階から、世界を市場と捉えてきた。対外貿易は空気のように重要であった。

スウェーデンは、長年にわたり、民主主義、男女平等、医療や教育への公平で容易なアクセス等、共通の価値観に基づく社会を築いてきた。これは、多くの人々の努力のたまものであるが、現在の成果は完成品でもなければ、簡単にまねのできる方法でもない。スウェーデン社会は、地方と国レベルで続けてきた議論や話し合いの成果であり、その基本理念は開かれた社会である。

スウェーデン経済は欧州の中で最も堅調な部類に入る。背景にはさまざまな理由があるが、重要な要因の1つは女性と外国人の労働市場への参加である。スウェーデンは、世界で最も男女平等が進んでいる国の1つであるといっても過言ではない。これは偶然に実現したのではなく、議員、非政府組織(NGO)、一般の人々の真剣な取り組みが実を結んだものである。女性の労働市場への参加拡大は、1.98と比較的高い出生率にも寄与している。男女参画の実現のために、保育サービスが拡充され、児童手当が増額された。もちろん、スウェーデンが相対的に成功を収めている背景には、他にもさまざまな要因があるが、スウェーデン政府が最近提示した2014年予算案には、経済成長と福祉制度拡充の両方をめざす幅広い施策が含まれていることが示されている。

政府は、経済成長と継続的な雇用拡大を支援するため、所得税控除拡大と地方税の課税対象所得金額の引き上げ、年金受給者への減税によって、家計の改善を目指している。税制はスウェーデンの福祉制度を支える重要な鍵であるが、高い税金自体が目的ではない。税金は政府にとって重要な財源であるが、可能な限り税負担を軽減している。このためには雇用が必要である。特に若年層は、長期間仕事に就いていないと、疎外感の悪循環に陥ってしまう。したがって、若年層向けエントリーレベルの仕事の他に、実習制度やさまざまな職業訓練プログラムへの支援を行っている。これと平行して、企業が負担する若年層の社会保険負担を軽減する施策を導入している。

スウェーデン人の5人に1人が外国生まれである。外国人がスウェーデン社会に溶け込むことは重要であるが、それは外国人がスウェーデン社会の活力の一部であるという理由以外に、定住者は誰でも温かく迎え入れるべきだからである。民族や社会集団の間の対立は誰の利益にもならない。新規の移民に対しては語学教育等、社会に溶け込むための特別な取り組みが必要である。

国の短期雇用支援や労働市場の柔軟性を向上させる施策を通じて、より柔軟で安定的な労働市場を実現させることが必要である。この柔軟性は、雇用主が労働者を搾取しやすくするためではない。むしろ、労働市場で働くすべての個人の権利を強化するためには、労働市場における積極的な取り組みがこれまでのように重要なのである。つまり、雇用促進プログラムの対象者は継続的な求職活動支援を受ける機会が与えられるべきであるが、一方で要件を満たす必要がある。

魅力ある労働者を育てるには、おそらく良い教育が最も重要だろう。適切な教育が受けられなければ、社会全体のダメージとなり、社会の将来的な方向性に関する決断に悪影響を及ぼすことになるだろう。これをふまえ、政府は現在、数学の学習時間の増加、宿題サポート、教師のスキルアップやキャリアアップの機会拡大等に重点的に取り組んでいる。現代のスウェーデン社会では政権交代があっても、常に教育が社会の基盤となってきた。イノベーションと起業家精神促進が求められる研究開発(R&D)についても同じことがいえる。企業向けの減税措置と管理コストの軽減も計画されている。

一部で支給されている特別児童扶養手当と特別住宅手当等の増額によって、経済的に最も弱い立場にある人々を支援することは、年金受給者向けの家賃補助やレクリエーション活動関連の児童手当給付の所得水準引き上げと同様、世帯間の所得格差を軽減する。

スウェーデン・モデルの特筆すべき成功例として常に取り上げられるのが、医療制度である。すべての国民に手が届く医療をめざしているが、常に改善の余地はある。医療と社会サービスの質、有効性、効率の向上を目指して最近導入されているのは、慢性疾患患者向けの複数年プラン、医療教育プログラムへの参加機会の拡大、アルコール依存症患者のリハビリプログラムの充実等である。また、スウェーデンが、同等の経済規模の国以上の金額を医薬品に支払うことのないような医薬品の価格設定モデルを作成する必要がある。

スウェーデンでは、酒類の販売に専売制が採用されている。数十年前まで、酒類を販売する店の営業時間は短く、販売方法もあまり魅力的とはいえなかった。この状況はかなり改善され、今では、スウェーデンの酒店の雰囲気は欧州各地と変わらない。店員もさまざまな種類のワインについて高度な知識を持ち、食事に合わせたワイン選びのアドバイスをすることも多い。しかし、アルコールの種類でははっきりとした違いがある。ビールとワインの税率は比較的低いが、ウォッカやアクアヴィット等の強い酒類には比較的高い税率が設定されている。これまでもたびたび議題になってきたが、寒冷気候のスウェーデンでは非常に強いお酒を飲む伝統が長く続いており、さまざまな課税手段を用いてより健康的な飲酒習慣を奨励することは有益だということは合意されている。

一般的にスウェーデン人は、清潔な環境に暮らしていることに誇りをもっている。スウェーデンの各都市の規模は、国際的には大きいとはいえず、都市部と農村地域の違いはそれほどない。ほとんどのスウェーデン人が、この状況を維持したいと考えている。スウェーデン人は、建築物の規模や広大な面積で構成される都市景観を創るにあったては比較的保守的であるが、環境保護対策に関してはかなり急進的な面もある。生物多様性、美しい田舎、きれいな空気を守ることは、社会的弱者を保護する手段と同様に重要視されている。

スウェーデン人と日本人は、考えられているよりずっと近い存在である。両国は、地理的には遠く離れているが、社会的行動はよく似ている。スウェーデン人も日本人も、内気でどちらかというと静かである。大声で話し、他人への気遣いのない振る舞いは好ましく思われない。他人を犠牲にした過剰な自己主張には、好感をもたれない。逆に、合意に基づく決定を望み、突出した相違を好まない。このため、意志決定プロセスが多少長びき、時間を要することもあるが、ひとたび決定すれば、すべてのオプションを考慮し、考えられる副作用について十分議論を尽くしたことを誰もが認める。

とは言え、スウェーデン社会と日本社会には当然、大きな違いがある。もちろん、日本の人口がスウェーデンの10倍であることは最大の相違点だろう。人口によって、日本の社会と環境は強い影響を受けている。両国の企業は同じような製品を製造し、競争し、補完しあっている。しかし、女性の労働市場参加の点においては、両国には大きな隔たりがある。学校制度も異なる。日本の学校教育で最も重視されるのは規律であるという印象を受ける。もちろん、あまり気の散ることのない学習環境は大切だが、創造性も必要である。スウェーデンでは、学生は問題に対する独自の解決法を見つけるように奨励される、そのプロセスを通じて自信を持つようになる。教えられた内容に疑問を抱く学生は、できるだけ多くの実証された事柄を学ぼうとする学生と同様に貴重な存在である。また、1クラスの学生数は、日本よりスウェーデンの方が少ない。このことで、秩序や規律以外の教育面をより重視しやすい。

お互いの相違点と類似点がどのようなものであれ、スウェーデンの人々は日本が大好きであり、日本の人々もスウェーデンが好きなようである。今後もこの状況が続くことを願う。

本コラムの原文(英語:2013年10月17日掲載)を読む

2013年10月23日掲載

2013年10月23日掲載

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