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世界の視点から

北欧諸国は米国と比べて革新性に欠けているのか?

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Mika MALIRANTA

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フィンランド経済研究所 (ETLA) リサーチ・スーパーバイザー

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「抱擁(cuddly)」資本主義の北欧諸国は、米国型経済におけるイノベーションへの「熾烈(cut-throat)」なインセンティブにただ乗りしているのだろうか? パソコンやインターネット、Google、Windows、iPhone、ビッグマックなどがこれを雄弁に物語っているのだろうか。本稿においては、北欧諸国が高い税負担と充実したセーフティネットにもかかわらず、米国以上ではないにせよ、同程度のイノベーションを生み出していることを述べる。これまでのところ、熾烈な資本主義だけが革新的経済への唯一の道ではない。

熾烈な資本主義と抱擁資本主義の区別(Acemoglu et al. 2012)は、広く浸透している固定観念と響き合う。つまり、米国は、生活するには「物騒な」場所だが、資本主義への「弱肉強食」アプローチが画期的なイノベーションを生んでいる。一方、欧州諸国、特に北欧諸国は公正な社会民主主義的社会であるが、快適過ぎるゆえに発明への意欲がそがれるというのである。Acemoglu at el.(2012)は、最先端技術の急速な発展には米国型の熾烈な資本主義が必要で、抱擁型の北欧経済は米国のイノベーションにただ乗りしていると主張する。

固定観念

実際はどうなのか? イノベーションと経済活動を推進する上で強力な金銭的インセンティブの重要性は否定できない。しかし、単純な経験則として北欧諸国が革新性において米国に劣るという見方は、控えめに言ってもデータに裏づけられてはいない。イノベーション活動とその成功を測定すると、北欧諸国は米国と同程度かそれ以上の実績を上げている。また、この結果はちゃんと説明できる。

活力のある北欧諸国

Acemoglu et al.(2012 a)の関連論文では、米国が革新性において北欧諸国に優るという根拠として、米国特許の件数と国民1人当たりの国内総生産(GDP)という2つの尺度を用いている。しかし、いずれもイノベーションを比較する尺度としてふさわしくない。

米国企業が米国での特許出願に強いのは当然である。国際比較にはむしろ同一発明を日米欧三極で共通出願する、いわゆる三極特許がふさわしい。この指標で見ると米国のイノベーション活動はスウェーデン、デンマーク、フィンランドに劣る。また、企業の研究開発費、総雇用に占める研究者の割合、対GDP比のベンチャーキャピタル・ストックといった、最も頻繁に使用されるイノベーションへのインプット指標を比較しても、同じ結果が得られる(表1)。なお、ノルウェーとアイスランドは豊富な天然資源を有する特殊なケースなので数字には含まれていない。

表1:イノベーション活動の指標(2008年)
米国 スウェーデン デンマーク フィンランド
人口100万人当たりの三極特許 48.7 88.3 60.5 63.9
企業の研究開発費の対GDP比(%) 2.01 2.78 1.91 2.77
被雇用者1000人当たりの研究者数 9.5 10.6 10.5 16.2
ベンチャーキャピタルの対GDP比(%) 0.12 0.21 0.16 0.24
雇用再配置率(2000〜2007年、%) 43.3 32.0 45.5 39.8
出所:雇用再配置率はBassanini and Garnero(2012)、他の統計はOECD(2010)

Acemoglu et al.(2012 a, 2012 b)で強調されているように、イノベーションにはリスクをいとわない姿勢が必要である。このため、極めて革新的な経済においては、企業がイノベーション活動に成功すれば急成長を遂げる一方、そうでなければ市場からの撤退を余儀なくされるため、雇用の創出と消失が頻繁に生じると考えられる。

入手できるデータを見る限り、米国経済が北欧経済と比較してよりダイナミックだとは断定できない(Bassanini and Marianna 2009, OECD 2004)。デンマークは雇用の再配置が米国より活発に進んでおり、フィンランドは米国と同程度である(表1)。また、米国の時系列統計では、1990年代末以降、雇用と労働力のフローが目立って鈍化しているが(Davis et al. 2012)、少なくともフィンランドでは両方のフローが依然、活発に推移している(Ilmakunnas and Maliranta 2011)。

生産性向上を推進する北欧諸国

もちろん、イノベーションへのインプットや特許出願件数、雇用再配置率は、社会が最先端技術推進の成功を測る理想的な尺度ではない。実際のアウトプットや付加価値の面から結果を測るものではないからだ。

しかし、国民1人当たりGDPも指標として優れているとは言えない。まず、1人当たりGDPは、労働資源の活用の程度に影響されるが、イノベーションには付加されない。2番目に、GDPには、適切な測定が難しい公的部門の付加価値が含まれる。特に国際比較においては、国によって大きく異なる公的部門の規模、データ編集の手法という問題がある。

このような問題は、市場部門の生産性を成果の尺度として用いることで回避できる。また、各部門の異なる中分類においての生産性を調べるのも有用である。表2は、Inklaar and Timmer(2008)に基づく労働生産性比較の一部を示す。

表2:労働生産性(2007年、対米国%)
スウェーデン デンマーク フィンランド
経済全体 83 76 80
市場部門 89 75 86
ICT産業を除く製造業 93 62 113
ICT 235 35 102
貿易 100 129 135
輸送・倉庫 50 73 82
金融・ビジネス 74 70 38
人材派遣 48 92 58
市場サービス以外 67 79 63
出所:Inklaar and Timmer(2008)、EU KLEMSデータベースを基に著者が試算
注:ICTは電子光学機器および郵便・電気通信を指す

労働生産性(付加価値/時間)における米国の優位性は、経済全体で見た場合より市場経済(表2の1、2項目)を比べた場合にやや小さくなる。興味深いことに、相対的な生産性水準は部門によって大きく異なる。米国は、特に金融・ビジネス業で比較優位性が高い。

生産性の測定において最も信頼性が高いのは製造業であり、製造業部門に焦点をあてるのが適切である。また製造業は、重要な技術が世界に伝播しやすいという特徴がある。

Inklaar and Timmer (2008)の調査には製造業部門全体の生産性の比較が含まれていないため、製造業を考察する際にはICTを除く必要がある。表2が示す通り、ICT以外の製造業では、米国の労働生産性はフィンランドを下回り、スウェーデンを若干上回るにすぎない。

図1では、(国の数が多く)より広範囲で、(時系列を用いて)長期にわたり、(全要素生産性を含む)生産性の実績を包括的に比較している。ここでは資本投入量の活用と労働投入量の質を考慮に入れて比較している。この図では、フィンランドの製造業における生産性の強さが長期にわたり、資本投入量の増化とは無関係であることが改めて示されている。

図1:ICT産業以外の製造業における相対的生産性水準図1:ICT産業以外の製造業における相対的生産性水準
出所:Inklaar and Timmer(2008)およびEU KLEMSデータベースに基づく試算

以上の考察を総合すると、米国流のインセンティブ方式が最先端技術の開拓に必要だとする主張にとっては、きわめて不利な証左となり得る。

教育の機会均等とイノベーションを推進する北欧諸国

北欧諸国が優れた実績を修めている一因として、人的資源をうまく流動化させていることがあげられる。国民1人当たりの労働時間では米国のほうが長いが、より包摂的な教育、社会、雇用政策のおかげで、北欧諸国では生産年齢人口の就労率が高い。

つまり、利益の高い経済活動に有能な人材が多く吸収されている。2番目に、イノベーション推進に向けた確固たる公共政策があげられる。

意外に有効なインセンティブ

3番目の理由は、米国には劣るが、北欧諸国におけるイノベーションへの経済的インセンティブが、部分的にせよ意外に功を奏している点である。例えば、北欧諸国すべてにおいて二元的所得税が導入されており、これに基づき、資本所得は均一税率で課税される。勤労所得にとってはかなり累進的な課税であるが、起業を促す一因となっている。最近、スウェーデンでは富裕税と相続税が完全に廃止され、富の蓄積が奨励されている。

また、優れたセーフティネット設計もリスク・テーキングを促す。特に失業保険は、従業員の雇用を容易にし、リスクをいとわない起業家を支援する可能性がある(Acemoglu and Shimer 2000を参照)。

北欧モデルにも調整が必要

北欧モデルにも問題がある。高い所得税と消費税に社会保障給付金制度が重なり、労働力の供給を減少させている。また、高学歴の新世代の流動化が進み、人生の様々な局面に合わせて「いいとこ取り」をする傾向につながるかもしれない。高齢化を背景に、手厚い公的年金と健康保険制度の持続可能性についても懸念が強まっている。

このような重圧を受けながらも北欧の抱擁資本主義が競争力を維持するためには、政策調整を要する。手厚い「福祉の保証」の実現には、効率的な公的部門と高い就労率が不可欠で、資金的に持続可能であることが前提である。

結論

米国経済は極めて独創的かつ柔軟で、多くの分野において生産性のフロンティアに達していることは疑う余地もない。結局のところ、パソコンやインターネット、Google、Windows、アップルのiPhoneやiPad、ビッグマックなどはすべて米国のイノベーションである。これには金銭的なインセンティブが重要な役割を果たしている。しかし、北欧諸国はより重い税負担と充実したセーフティネットにもかかわらず、少なくとも米国程度のイノベーション活動を行っており、重要な経済分野における生産性の水準は米国に匹敵する。これまでのところ、熾烈な資本主義だけが革新的経済への道ではない。

本稿は、2012年12月9日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2013年2月6日掲載)を読む

2013年2月26日掲載

参考文献

  1. Acemoglu, D, Robinson, C, and Verdier, T (2012a), "Can't We All Be More Like Scandinavians? Asymmetric growth and institutions in an interdependent world." NBER, working paper, 18441.
  2. Acemoglu, D, Robinson, J, and Verdier, T (2012b), "Choosing Your Own Capitalism in a Globalised World?", VoxEU.org, November 21, 2012.
  3. Acemoglu, D, and Shimer, R (2000), "Productivity Gains from Unemployment Insurance," European Economic Review, 44, 1195-1224.
  4. Bassanini, A, and Garnero, A (2012), "Dismissal Protection and Worker Fows in OECD Countries: Evidence from cross-country/cross-industry data", IZA/ DP, 6535.
  5. Bassanini, A, and P Marianna (2009), "Looking Inside the Perpetual-motion Machine: Job and worker flows in OECD countries." IZA/ DP,4452.
  6. Davis, S J, R J Faberman and J Haltiwanger (2012), "Labor Market Flows in the Cross Section and Over Time," Journal of Monetary Economics, 59, 1-18.
  7. Ilmakunnas, P, and M. Maliranta (2011), "Suomen työpaikka- ja työntekijä virtojen kä ä nteitä : toimialojen elinkaaret ja finanssikriisi", Työpoliittinen Aikakauskirja, 54, 6-23.
  8. Inklaar, R, and Timmer, M (2008), "GGDC Productivity Level Database: International comparison of output, inputs and productivity at the industry level," EU KLEMS, working paper, 40.
  9. OECD (2004), Understanding Economic Growth, Paris.
  10. OECD (2010), OECD Science, Technology and Industry Outlook, Paris.

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