世界の視点から

ASEAN+3通貨統合の次なるステップ

Pradumna B. RANA
南洋理工大学准教授

現在、通貨統合の促進について語るのは、たとえアジアの通貨統合であっても良いタイミングではないかもしれない。しかし本稿では、ASEAN+3(東南アジア諸国連合+日中韓)が先頃、通貨統合をさらに深化させるために講じた、重要な措置について取り上げたい。また、次のステップは、地域加重通貨バスケットの導入と参加国の拡大であろう。

2012年5月3日、マニラで開催されたアジア開発銀行(ADB)年次総会の機を捉えて、ASEAN+3は地域通貨統合のさらなる深化に向けて重要な措置を多数、講じた(共同ステートメント2012)。ただ、昨年のADB融資額の急増やASEANインフラ基金の設立など、他の活動や発表が相次いだため、以上で述べた重要な措置にはあまり注目が集まらなかった。

マニラ会議における最大の成果は、参加13カ国(+香港)の中央銀行総裁が招かれ、ASEAN+3財務大臣会議(AFMM+3)がASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議(AFMGM+3)に格上げされたことである。これまでは地域における危機予防と解決の「ファイアウォール(防火壁)」は、もっぱら税・歳出政策を担当する財務閣僚が担い、通貨・為替政策の当局者は蚊帳の外であった。この大きな空白がようやく埋められたことになる。

「チェンマイ・イニシアティブのマルチ化」強化

危機対応のための「チェンマイ・イニシアティブのマルチ化(CMIM)」基金については、依然として欧州の救済基金より格段に小さいものの、資金規模がこれまでの1200億ドルから倍増された。国際通貨基金(IMF)の融資制度と連動せずに借入ができるIMFデリンク割合は30%に引き上げられ、2014年には40%へ引き上げをめざす。また、会議では、経済のファンダメンタルズが強固な国には危機予防のために多額の流動性借り入れを認めるCMIM予防ラインを創設した。今後、同クレジット・ラインの詳細は詰められることになるが、関係者は、IMFにおける同様のファシリティーはこれまで3カ国しか利用していない点に留意すべきである。理由を検討し、対応策を練る必要がある。

また、各国財務大臣・総裁は、「ASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)」の職員採用の成功と地域のサーベイランス(監視)活動を高く評価するとともに、それぞれの代理に、AMROの組織能力強化策の検討を要請した。また、AMROが必要とするホスト国支援を行うとのシンガポールの姿勢を歓迎した。

AMROは魏本華・事務局長の下で優れた業績を上げたものの、多数の課題に直面している。上述したもの以外に2つの課題が挙げられる。

  • まず、世界経済危機のまっただ中、金融チャネルを通じて最も影響を受けた韓国とインドネシアが、地域の危機対応基金であるCMIMからの融資を受けず、他の手段に頼った理由を、AMROは把握する必要がある。韓国は米連邦準備制度(FRB)から借り入れ、インドネシアは、世界銀行主導のコンソーシアムと革新的な契約を結んだ(Henning and Khan 2011)。ユーロ圏ではギリシャの離脱、いわゆるGrexitがますます現実味を帯び、事態は急速に悪化しており、これに呼応して再び地域から資本が流出しないようにAMROはこの問題を徹底的に調査し、是正策を講じるべきである。
  • 2番目に、AMROはIMFとの効果的な連携を図る手法を見出さなければならない。G20カンヌ・サミット最終宣言では、各国首脳が「危機予防・対処に向けた取り組みを強化する、IMFと地域金融取極(RFAs)の間の協力のための共通原則に合意した」とうたわれている(G20事務局、2011)。LamberteとMorgan(2012)は、IMFと地域セーフティネットの間の協調をより効果的にするために提言を行っている。欧州ではIMFがトロイカ体制の一翼を担い、欧州連合(EU)、欧州中央銀行(ECB)と緊密に連携しており、欧州の経験は、AMROとIMF間の連携の手法を設計する担当者の参考になるだろう。

AMROは設立後1年を過ぎたばかりで、やるべきことも多い。過大な負担は避けるべきだが、比較的少ない資源で済む次の2つのステップは検討の価値がある。第1のステップは、AMROが、地域加重通貨バスケットである「地域通貨単位(RMU)」をニューメレール (基準化の通貨)として導入することである。RMUの導入によって通貨価値はより安定するだろう。また、各国が互いに通貨切り下げ競争を避け、統合の深化に向けてマクロ経済政策を収斂させていることを確認するAMROのサーベイランス活動が、より容易になる。最終的にはRMUは、不安定な米ドルに代わる国際準備資産になる可能性があるが、これは目下のところ、遠い将来の可能性にとどまる(Kawai 2010 and Rana et al. 2012)。

オピニオンリーダーは地域通貨単位をどう考えているのか?

筆者は先頃、ASEAN+3リサーチ・グループの要請で、南洋理工大学の研究者チームのリーダーとして、ASEAN+3のオピニオンリーダー(政府高官、学者・研究者、銀行家)に対する調査を実施した(Rana et al. 2012)。全体の3分の2以上のオピニオンリーダーが、CMIMの加重を用いてRMUを算定し、日次ベースで公表する任務をAMROが担うべきだと回答した。また、ほぼ同数が、AMROの主たる活動である地域のサーベイランスにRMUを用いるべきだと回答した。そして多数が、AMROの予算とAMROおよびCMIMの業務は、IMFの特別引出権(SDR)のようにRMU建てで表示すべきだと回答した。

ASEAN+3参加国の拡大

第2のステップは、AMROとCMIMを含むASEAN+3参加国を拡大する必要性であるが、とりわけ地域の危機対応基金の資金規模を拡大できるからである。すでに2年前、AMROの諮問会議議長を務めるチャロンポップ・スサンカーン前タイ財務大臣(2010)は、インド、オーストラリア、ニュージーランドを、CMIMの正式参加国ではないまでも、準参加国および資金拠出パートナーにすることを提案していた。

筆者はこれまでもASEAN+3の参加拡大はG20首脳会議におけるアジアの発言権の強化につながると述べてきた(Rana 2009, Rana 2010)。拡大ASEAN+3の共同政策協調会議を開催することで、ASEAN議長国はG20サミットにしっかりとした地域議題を提出できるようになるだろう。次回AFMGM+3会議は2013年5月にニューデリーでの開催が予定されており、参加国拡大を図る絶好の機会である。

本稿は、2012年5月27日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2012年6月11日掲載)を読む

2012年6月14日掲載

2012年6月14日掲載

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