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最低賃金はどのようにして設定されているのか?
最低賃金の設定方法は国によって異なり、一部の国では労働者の区分別に設定されている。

Richard DICKENS
サセックス大学 / 英国低賃金委員会 / IZA

概要

現在、最低賃金はかつてないほど重要な政治課題となり、ドイツ、英国、米国などのOECD加盟国の政治家は大幅な引き上げを要求している。関心が高まっている1つの理由は、適正レベルに設定された最低賃金は雇用の見通しに悪影響を及ぼすことなく、低賃金労働者の支援につながるという見方がエコノミストや政策立案者の間でコンセンサスとなりつつあることである。しかし、各国はどのようにして最低賃金額を設定するべきなのか。最低賃金額とその体系を決める過程は、調整方法を含め、国によってかなり違う。それぞれの手法には長所と短所がある。

The global prevalence of different minimum wage setting regimes

主な研究結果

プラス面
  • 最低賃金の設定方法は数多くあるが、現在、多くの国の政府は、適正額について専門機関の勧告を受けている。
  • 政府から独立した専門機関によって最低賃金が設定される体制は、雇用者・被雇用者団体の支持を得やすくできる可能性がある。
  • 最低賃金の平均賃金に対する比率(最低賃金/平均賃金)は、国によって大幅に異なる。
  • 労働者の区分(年齢層や業種など)に応じて異なる最低賃金を設定することにより、単純な賃金率構造の場合と比較して低賃金や貧困の問題に的を絞ることができる。
マイナス面
  • 予め定められた計算式によって最低賃金を設定すれば、労働市場環境の変化に対応できる柔軟性が失われる。
  • 最低賃金が計算式や、第三者の提言ではなく、政府によって設定される場合、経済的な理由ではなく、政治的な理由に基づいて設定されてしまうリスクがある。
  • 労働者の区分に応じて異なる最低賃金は、運用が煩雑になるなど、正しい金額を把握できていないことによる不履行を招くなどの可能性がある。
  • さまざまな手法の有効性を比較できるようなエビデンスを入手することはほぼ不可能であり、最低賃金以外の影響が多数存在する。

本稿の主旨

多くの国において最低賃金は、極端な低賃金への対策として多くの国で一般的になったが、各国でその設定方法にはかなりのばらつきがある。計算式、政府による金額設定、組合交渉によるレート、専門機関の勧告レートなど、さまざまな設定方法がある。確固たるエビデンスに基づいて勧告を行う専門機関には、経済状況の変化に対応し、政治的な干渉を受けずに企業と労働者の合意を形成できるという強みがある。英国の低賃金委員会(LPC)は専門機関の一例であり、現在、多くの国が同様の手法を採用している。

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本稿は、2015年11月にIZA World of Laborにて掲載されたものを、IZAの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2016年1月12日掲載)を読む

2016年1月19日掲載