第4回:~フェローに聞くワイド版~金融再生プログラムの評価と課題~10月30日発表の総合デフレ策に関して

金融再生への課題と展望

鶴 光太郎
上席研究員

10月30日に決定された総合デフレ対策(「改革加速のための総合対応策」)のうち金融再生の部分につき、その評価と今後の展望について簡単にコメントしてみたい(産業再生については、RIETIコラム0062: 「セイフティ・ネットの誘惑」参照)。金融界や与党から強い反対にあった、「繰延税金資産の自己資本への算入に関するルール見直し」についてはその時期を明示できなかったことで「完全に骨抜きされた」という報道が多い。しかし、筆者が昨年、RIETIコラム(0004: 「不良債権処理・先送りからの訣別」)でも提案したような、各行ばらばらな大口問題債権者の債務区分について、「妥当な区分への統一を行うために仕組み導入」が盛り込まれたことは評価したい。また、不動産や流通向けの引当を強化せざるを得ない「DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)方式の検討」も、銀行を強制的な不良債権処理に追い込む方策として一定の効果が期待できる。

しかしながら、ガバナンス強化策は期待はずれであった。確かに、現在の経営陣に不良債権問題の責任すべてを問うのは難しいかもしれないが、不良債権処理が先送りにされ、処理に時間がかかっている間に経営者が入れ替わることで経営責任があいまいになり、最近の景気低迷による不良債権の追加がそうした意識に拍車をかけているように思われる。つまり、銀行の現経営陣も「被害者」であるという認識である。しかし、どこかで一気にけりをつけ、問題の責任を取ることを行わなければ本質的な解決にはならない。

竹中PTとの会合で、「税効果会計の見直しを無理やり行えば、相当な資産圧縮が必要なため、大規模な貸し渋りや貸しはがしが発生する」と脅した銀行経営者の発言が報じられているが、銀行がきちっと自己資本の「質」の問題に向き合えば、リスクを考慮し、「貸し渋り」を行うのはある意味では合理的な行動である。したがって、一方では厳格な資産査定を要求し、また、他方で、「中小企業への貸し渋りはけしからん」というのであれば、銀行は「またさき状態」であり、政策的に自己矛盾をきたしている。つまり、「貸し渋り、貸しはがしはけしからん」と言ったり、銀行の「貸し渋り」の脅しに屈するのはあまり意味がない。また、もし、ある企業に不当な貸し渋りが行われているとすれば、他の金融機関は当該企業の将来性を評価して貸し出しを行うインセンティブがあるはずである。しかし、中小企業の場合、メイン・バンクがその情報を独占しているため、他の貸し手が借り手の質を評価しにくいという情報の非対称の問題はより深刻であり、また、多くの金融機関が同時に自己資本を毀損している状況では、中小企業が代替的な金融機関を見つけるのは容易でないことも確かである。最低限のセイフティ・ネットとして、金融システムの方向としては縮小すべき公的金融などにむしろ当面は頼らなければならず、公的金融システムの更なる肥大化も生むかもしれないというジレンマは相当深刻である。

今回、総合デフレ策に盛り込まれたのは主要行に限った対策である。地方銀行や信用組合については、10月25日に今国会に提出された「金融機関等の組織再編成の促進に関する特別措置法案」が基本的な対策となる。主要行向け対策の議論に隠れてマスコミではあまり取り上げられていないが、その中身は相当大胆である。「金融機関同士が合併してくれるなら、金融当局はなんでもやります」という内容であるからである。つまり、「悪い銀行と合併しても資産の劣化分は資本注入するので、合併は安心です」、それに、「預金者には1年間だけ合併した銀行の数×1000万円の預金を保証できるので、合併は大変お得です」と謳われている。金融当局が恥じも外聞も投げ捨てて、こうした「バーゲンセール」を行い、金融機関のモラル・ハザードを更に煽る危険性のあるような、政府お墨付きの「大きすぎてつぶせない」政策を推進しようということは、こうした地銀や信組の経営状況が相当悲惨であることをクレディブルにシグナルしていると解釈できる。したがって、金融再生の道のりは残念ながらまだまだ険しい。むしろ、当面の問題を解決するために、その道のりを逆戻りしている部分があるといわざるを得ない。

こうした政策的な流れをロール・バックするためには、主要行の一部について、海外業務から完全撤退させ、資産売却を行い、よりハードルの低い自己資本比率4パーセント・ルールに従わせることで、これまでの責任を一気に取らせることも一案である。また、他の金融機関については、合併による「大きすぎてつぶせない」策にみられるような「くさいものにはふたをする」政策ではなく、ペイオフ解禁の下、預金者による銀行選別という市場メカニズムを使って、リストラクチュアリングを進めるべきであろう。

2002年11月5日

2002年11月5日掲載

この著者の記事