夏休み特別企画:フェローが薦めるこの1冊'08

『ベッカー教授、ポズナー判事のブログで学ぶ経済学』

加藤 篤行顔写真

加藤 篤行(研究員)

研究分野 主な関心領域:経済成長、生産性分析、貿易と経済発展

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『ベッカー教授、ポズナー判事のブログで学ぶ経済学』ゲーリー・S. ベッカー、リチャード・A. ポズナー、東洋経済新報社 (2006)

『ベッカー教授、ポズナー判事のブログで学ぶ経済学』表紙 昨今、急激な食料・燃料価格の上昇や非正規雇用の増加などを背景に、マスメディアなどでは自由な経済活動への批判的な論調がしばしば見られるようになっている。これらの批判にはもちろん傾聴に値するものも少なからず含まれているのであろうが、身近な話題である分感情的な議論や合理性を欠く主張が受け入れられやすいという面もあるように思われる。このようなときに、本書で展開されているような経済学的思考に基づく公共政策上の諸問題に関する分析に触れることは、自らの考えを整理するためにも役に立つであろう。

このように書くとなんだかお堅い・難しい話のようにも思えてしまうが、本書で展開されている議論は専門家でなければ理解できないようなものではない。ブログに公開して不特定多数の読者からフィードバックを得ることを前提とした意見交換であるため、小難しい数式などは一切用いられておらず、読者は通勤電車の中で新聞や小説を読むように読み進めるだけで充分理解できる内容になっている。あえて言うならば、それらに賛成するか反対するかは別として、

「いかなる政策にもトレード・オフがある」
「強制力よりインセンティブによって行動を導くほうが重要である」
「規制者が市場より合理的に意思決定を行えると考える理由はない」

といった彼等の主張を構成する上での基本的な考え方を理解していれば、自身の思考や巷にあふれているさまざまな主張について考える際にも、本書で行われている議論はより参考になるであろう。

また、興味がある人は本書の基になった彼等のコラム(毎週日曜日に更新しているらしい)を覗けば、英語の勉強にもなって一石二鳥かもしれない。

世界的な学者であるベッカー教授とポズナー判事の議論は、今現在生活や就業の不安に直面している人々から見れば竹林の清談のように感じられるものかもしれない。また、彼らの主張の背景にある科学技術進歩への楽観的な信頼やアメリカ人の理想とする社会観を受け入れられない人もいるであろう。ただ、そうした人々にとっても、彼等の主張に徹底的に反論するコメントを寄せて自由に議論に参加できるというところが彼等のブログの面白いところである。

なんだか、本の紹介だかブログの紹介だかわからなくなってしまった。

ベッカー教授とポズナー判事のブログ

次回は小西葉子研究員の『天璋院篤姫』です。

2008年8月5日