夏休み特別企画:フェローが薦めるこの1冊'07

『あなたのTシャツはどこから来たのか?』

松本 加代顔写真

松本 加代(研究員)

研究分野 主な関心領域:通商法、投資協定、国際行政学

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『あなたのTシャツはどこから来たのか?』ピエトラ・リボリ著 雨宮寛、今井章子訳 東洋経済新報社 (2006)

『あなたのTシャツはどこから来たのか?』表紙 この本の題名を見て、どうせアンチグローバリゼーションの本だろうと思った人は多いのではないかと思う。そうではない。この本は、Tシャツという身近な物品を軸に、産業発展の歴史、米国政治とロビイング、通商政策が産業に与える影響、開発など、さまざまな議論や事実をわかりやすく紹介している。満員電車にもめげず一気に読んでしまった。著者自身が結論で述べているように、この本は、グローバリゼーションに関する理論でも結論でもなく、「さまざまな論議を浮き彫り」にしたものである。

以下、興味深かった点を紹介しよう。

「あなたのTシャツはどこから来たのか?」「中国」と答える人が多いだろう。では、その原料である綿(わた)は? 著者のTシャツの場合、それは意外にも米国のテキサスだった。驚いたことに、米国は過去200年以上にわたって綿の世界一の産地であり、現在でも米国の綿生産高は中国に次ぐ2位ということだ。著者はその要因を説明する。膨大な補助金だけではない、強さの秘密があったというのだ。

次に著者は米国の綿が糸になり、生地となり、裁断されて縫製される中国に向かう。そこで描写されるのは、工場の様子とそこで働く労働者たちだ。彼らの労働環境や如何に?

物語はだんだん面白くなってくる。米国の繊維貿易の制限を強力に推進する繊維業界の懸命の努力が語られる。彼らは、グローバリゼーション(又は市場経済)に逆らうことはできないが、その進行を局部的に緩やかにすることはできるのだ。特定の業種を保護するための、複雑な原産地規則や関税分類が挙げられる。特に面白いのは、長年欧米諸国で実施されてきたさまざまな貿易制限的措置が、市場の大きな力を受けて意図しない結果を生み出したいくつかの例である。

最後に、米国人の中古Tシャツを売買するビジネスの話になる。古着の多くはアフリカ諸国に輸出されるということだ。このことは、それらの国が繊維産業によって発展する機会を阻むという議論もある。しかし、著者がタンザニアで見たものは何か? Tシャツの一生を原料から追ってきた著者は、そこで初めて正真正銘の「自由市場」を見た。そして、古着貿易で活発化したビジネスは新たな雇用を生み出していた。

2007年8月24日