夏休み特別企画:フェローが薦めるこの1冊'02

『慮る力』

中林 美恵子顔写真

中林 美恵子(研究員)

『慮る力』 岡本呷也著 ダイヤモンド社 (2001年)

『慮る力』表紙 夏休みだから、気楽に楽しんで読める本がいい。「慮る力」はそんな本だ。読んで楽しいのは、実際に職業のプロとして活躍する人々が実名で取材されているからだ。500ページもある厚い本だが、いろんな人が登場するので斜め読みも飛ばし読みも自由自在。どう読んでもビジネスと人間の「EQ」(こころの知能指数)の使い方が出てくる。私は自動車販売業の例とジャーナリストの例が興味深いと感じた。人によっては医師や百貨店、葬儀社、管理職などが面白いかも知れない。
「慮る力」とは「思いやり」でもある。著者は「とても当たり前のこと」と記しているが、その当たり前さを体系的かつ実践的にさまざまな角度から説明しているところが有用である。私の場合、日本人の仕事ぶりに接して感じる「キメの細やかさ」の理由が、この本にみごとに説明されている気がしてしまった。長い米国生活で、サービス業のサービスの悪さに辟易していた私からすると、彼らに読ませてやりたい本である。ワシントンで自宅の改装に関わった職人たちの顔も目に浮かんでくる。キッチン、バスルーム、絨毯、ブラインド、引越し屋などさまざまな業者に接したが、誰もかれもが時間を守らない、見えすいた嘘はつく、仕事が下手、連絡が取れな い、など酷い目に遇ったものである。

そういうわけで本当のことを言うと、サービス業や改装業に就くアメリカ人に読ませたい本なのだが、もちろんビジネスでの成功を目指す日本人にも楽しめる本に違いない。

中林 美恵子(研究員)
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