児玉 俊洋

NHKラジオに出演

児玉俊洋上席研究員がNHKラジオに出演。「三井三池炭鉱離職者の再就職に見る転職(雇用)可能性」についてに語る

児玉俊洋上席研究員 が2002年1月9日に放送されたNHKラジオ第一放送 「NHKラジオ夕刊」 (月~金曜後6:00~6:50)に出演。同研究員が調査した三井三池炭鉱閉山後の離職者の再就職状況やそこから学べる失業問題への対策などについてインタビューを受けた。

「NHKラジオ夕刊」で放送された児玉上席研究員の出演内容

出演前、「NHKラジオ夕刊」のキャスター、スタッフと簡単な打ち合わせをする児玉研究員(写真右)
資料に目を通し、三井三池炭鉱関係の単語などを最終確認
出演直前、緊張した面持ちの児玉研究員
いよいよオン・エアー
出演前はかなり緊張した様子の児玉研究員だったが、実は昔から朗読に興味があったなどと語っていただけあり、放送が始まると持ち前の美声を活かし、落ち着いた口調で的確にキャスターからの質問に答えていた
「NHKラジオ夕刊」の編集長を務める松尾正洋解説委員(後方右)とキャスターの岩井理江さん(後方左)と共に本番終了後の記念フォト。出演の余韻を引きずってか、やや表情が硬い児玉研究員

松尾正洋氏(「NHKラジオ夕刊」編集長、以下敬称略):
日本の失業率は5%を超えて、過去最悪の状態が続いています。今後経済の構造改革が進みますと、さらに失業者が増加しかねない状況で、雇用の場をいかに確保するかが大きな政治課題になっています。こうした中で、過去に多数の離職者を出した炭鉱の閉山のケースを見ておくことが、今後の対応の参考になるものと見られます。今日は三井三池炭鉱の閉山の事例などについて調査をされてきた、経済産業研究所上席研究員の児玉俊洋さんにスタジオにおいで頂いています。児玉さん、今日はありがとうございます。

岩井理江さん(「NHKラジオ夕刊」キャスター、以下敬称略):
よろしくお願いします。

児玉俊洋上席研究員(以下敬称略):
よろしくお願いします。

岩井:
まず、炭鉱の離職者の転職状況に興味を持たれたのはどんなお気持からだったのでしょうか?

児玉:
私は前職は今の内閣府になる前の、経済企画庁におりまして、そこで地域経済動向の調査を担当していたんですが、その時に雇用のミスマッチが激しいということを強く感じました。平成12年は景気が上向きの頃で、緩やかな改善が続いているということをずっといいつづけ、地域でもそうだったんですが、景気ウォッチャー調査という経済の現場の人、小売店とかタクシーの人とかですね、現場の人の景気判断を聞くという調査の立ち上げを担当していたんですが...

松尾:
現場の生の声を聞くということですね。

児玉:
そうです。雇用関連のウォッチャーの方から頻頻としてそういう(雇用のミスマッチが激しい)報告があがってくるわけです。平成12年の前半は求人需要が急激に伸びているけれど、人手不足で対応できない。そのくらいに景気が良くなっているという報告だったんですが、それが平成12年の後半になってきますと、いくら求人需要があっても、それに見合った人材がいなくて結局雇用が伸びない。景気はやはりこのままじゃあまり良くならないという判断に変わってきたわけですね。それはマクロの経済指標ともよく一致しています。景気がよくなりかかって、生産活動が活発になり、企業の求人需要は伸びたんだけれども、ITとか営業の専門的な人とか、サービスの一部の分野とか、技術的に企業の必要なスペックに当てはまる人がなかなかいなかった。結局雇用が伸びなかったんですね。雇用が伸びないと、個人消費も伸びない。GDPの5割以上を占める個人消費が伸びないということで、結局日本経済は自律的回復に至らないまま、昨年になってアメリカ経済の減速やIT不況などで、そのまま後退してしまった。雇用もさらに悪化してしまった。雇用のミスマッチが激しいんで、成長する分野に人材が移動していかなくてはいけない。労働移動が必要なんです。それは今の小泉政権の構造改革の本質的な課題になってくる。特に不良債権処理は建設業とか流通業とか特定産業に影響が出てきますから、必ず他の業種や職種に移らなければならない人も構造改革を進めていくとどうしても出てくる。それがどの程度可能なのか何か手がかりを掴みたいということ、またそれが構造改革を進める上での参考になればとの思いでこういう調査をしたわけです。

松尾:
そうしますとまさに今日的な問題意識からスタートされたわけですね。

児玉:
ええ。わが国の事例として炭鉱閉山というのは、他の業種、他の職種に移らなければならないということが大量に発生したケースですから。

松尾:
今までに例を見ないような膨大な労働移動が起きたわけですよね。具体的にはどの炭鉱の事例を調査されたのでしょうか?

児玉:
炭鉱閉山を始め、炭鉱の歴史は過去40年以上に渡って合理化とか雇用の縮小とかがされていたわけですが...

松尾:
いわゆるエネルギー革命の中で相当進んできましたよね。

児玉:
ええ。その中で一番最近の大型閉山の事例が平成9年3月に閉山した福岡県と熊本県にまたがる三井三池炭鉱です。今、九州のもう1つの池島炭鉱と北海道の太平洋炭鉱が閉山に向かうとか、そういう提案が協議されているというわけですが、実績が分かる一番最近の例が三井三池炭鉱であったということで、地元の関係者の方に大変協力して頂いて調査させていただきました。

松尾:
三井三池炭鉱といいますと、大変歴史のある大型炭鉱ということですが、離職者としてはどれくらいの規模だったのでしょうか?

児玉:
1553人ですが、これは三井石炭鉱業三池鉱業所の本体、一次下請け、二次下請け、それから資本関係のある取引子会社を併せて、1553名の方がそれに伴って解雇されたということです。あと、主要な取引先で30人くらい離職された方がいますが、その後の就職状況が統計的に分かるという意味では1553人です。

岩井:
その離職された方達の再就職に当たりましては、炭鉱ゆえの事情もあったかと思われますが、どのような特徴がありましたでしょうか?

児玉:
再就職を難しくする求職事情もありました。炭鉱の方は地元での再雇用を望んだんです。地元志向性が非常に強かったんです。これは三井石炭鉱業やその親会社の三井鉱山株式会社の方に聞いたところ、北海道の砂川や芦別といった炭鉱を閉山した時でもやっぱり地元での雇用を望んだというんです。きちんと調べたわけじゃないですが、建設業の方などは割と全国を渡り歩くことは多いですが、炭鉱労働者は他の業種よりも地元志向性が強かった。地元志向性が強いと、それだけ求人開拓の地理的範囲が限定されますよね。それから炭鉱の中の職種にもよるんですが、失業手当に相当するものが最大3年間認められていた。普通は今の制度では、倒産・解雇の場合、最大で330日ですが、それを超えて最大3年間の失業手当があったので... (注1)

松尾:
とすると、それだけ腰を据えて再就職先を探すことができたという面があるわけですね。結果的に再就職ができた人は何人くらいになるんですか?

児玉:
1500人強のうち、求職をし続けた人は1317人の方で、そのうち就職された方が1065人ということで、1317人に対して80%強の方が再就職されたということです。

松尾:
率としてはかなり高いという印象を受けるんですが、炭鉱離職者の場合は比較的高齢の方が多いわけですが、高齢者でも平均すれば80%は再就職できたということになるんでしょうか?

児玉:
いくつか担当する公共職安がありますけど、大牟田の公共職安で捉えている範囲ですと、56歳以上の方は就職率は50%にとどまっていますね。それより若い方は90%以上です。50歳以下ですと、97%くらい就職されています。これも炭鉱労働者の特有の事情なんですが、年金が55歳から支給されるということで、高齢の方は緊要性はそれほどでもなくて済むという事情がありました。ですから必要度の高い人から再就職をして、4年かかりましたが、全体として8割くらいが再就職をできたということです。平成9年3月以降というのは景気が下り坂に入っていく非常に厳しい経済状況でしたから、そういったことを考慮するとかなり成功した事例というふうに考えてよいと思います。

松尾:
そうですね。

岩井:
再就職先はどんなところが多いのでしょうか?

児玉:
多い方からいいますと、製造業、建設業、サービス業、運輸業といったところです。

松尾:
製造業にそんなにたくさんの方が行かれたんですか?

児玉:
製造業の工場の技能工でありますとか、機械とか電気設備の保守点検要員とか、そういう方が多かったですね。

松尾:
これは職種の内容もかなり変わりますね。

児玉:
職種は変わります。当然他の業種であり、職種も採掘という職種はないので、ご本人達の希望もあって現場で作業していた人が事務職に移るというケースは無いんですけども、かなり違った業種・職種に就いているということです。

松尾:
業種、職種の異なる分野に再就職した人が多いわけですが、そのためにはどういう支援策がとられたのでしょうか?

児玉:
地元の大牟田市や荒尾市を始め、地元の市町村、県レベル、国レベル、それから先ほどの大牟田を始めとする職業安定所、職業訓練校、それから労使関係の経緯もあり、会社である三井鉱山、三井石炭といった関係機関が連携を良くして職業紹介、求人開拓に全力を尽くしたということがあります。その中で特徴的なのは、職業訓練と職業相談だったと思うんです。職業訓練は地元の公共的な職業訓練施設では足りませんので、定員を拡大する、民間にも委託をするということで、官民の連携も含めて行われました。

松尾:
民間の事業所で職業訓練を行ったのですか?

児玉:
民間の専門学校などです。それからもう1つ大変特徴的なのは職業相談です。職業安定所だけでは時間的にも場所的にも足りないということで、臨時職業相談所を設けて、そこに援護相談員を合計で24名配置しました (注2) 。援護相談員の方っていうのは主として三池鉱業所のOBの人達、労働組合の役員の方や労務担当の経験者の方々でして...

松尾:
ということは場合によっては顔見知りの方であったり、仕事の内容も熟知しているというわけですね。

児玉:
ええ。それが大事だったと思うんです。今の雇用情勢でも求人と求職のマッチングが一番大きな課題だと思うんですけれど、そこを上手く仲介する、情報を上手く知るようにすると。三池炭鉱の閉山の場合には、少なくとも求職者の事情が良くわかった人が相談に当たっていたというのが今でも示唆的なポイントではないかと思いますね。

松尾:
そうしますと職業訓練、きめ細かい職業相談、これは今のような雇用情勢の中でも充分検討に値する方向ですね。

児玉:
いろんな業種がありますから、この方法をこのまま当てはめるということではないですが、この事例の最大のポイントは、異なる業種、異なる職種に転職することができたということを示すケースだということです。それが大変重要だと思います。

松尾:
このノウハウというのはもうちょっとみんなで共有して今の厳しい雇用情勢を打開する1つの材料にしたいところですね。その為に政府、自治体としてどんな手立てが必要でしょうか?

児玉:
雇用維持ではなくて、成長部門への移動を円滑化するという方向が大事です。そのための職業紹介と教育訓練ということに国レベルでも地方自治体レベルでも仕組みを整備すること。今の政策の流れはそうなっていると思うのですが、細かいところでは、補正予算の中の公的雇用については、単に短期的な雇用ではなく、それをきっかけとして求人求職の情報の媒体としてうまく仲介していくということを心がけて欲しいですね。

松尾・岩井:
経済産業研究所の児玉さんにお話を伺いました。ありがとうございました。

取材・文/広報グループ編集担当 谷本桐子

児玉研究員による付記

  • (注1)炭鉱離職者の場合、最大3年間の失業手当に相当する給付があったことは、それだけ腰を据えて再就職先を探すことができた反面、早期に再就職する意欲を鈍らせる面もあったことに注意する必要がある。
  • (注2)正確には、臨時職業相談所のほか、公共職業安定所、職業訓練機関配置を含めて24名。

関連リンク

「三井三池炭鉱離職者の再就職とそこに見る転職の可能性」に関しては児玉上席研究員の経済産業ジャーナルへの寄稿、さらに詳細はディスカッションペーパーをお読みください。