変貌する日本の雇用システムの下での組織市民行動の再評価-所属型・挑戦型組織市民行動の規定要因の実証分析

執筆者 久米 功一 (東洋大学)/鶴 光太郎 (ファカルティフェロー)/佐野 晋平 (神戸大学)/安井 健悟 (青山学院大学)
発行日/NO. 2021年9月  21-J-044
研究プロジェクト AI時代の雇用・教育改革
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概要

本稿では、経済産業研究所(RIETI)が実施したウェブアンケート調査の個票データを用いて、雇用者が組織のために任意に行う、必ずしも褒賞を伴わない行動(組織市民行動、OCB)、具体的には、所属志向型OCB(組織のためになる行動)と挑戦志向型OCB(不正を報告する)とパフォーマンス、および、個人属性・性格特性等との関係を実証的に分析した。

まず、パフォーマンスとの関係では、二つのOCBに対する金銭的なリターンは生じていなかった。その一方で、二つのOCBを行う人ほど、仕事満足度が有意に高かった。

続いて、OCBの規定要因として、①個人属性や性格特性、②日本型雇用システム、③良好な対組織・対人関係としての人材育成、職務特性、ウェルビーイングをOCBの説明変数とした回帰分析を行った。その結果、①女性や役職者、協調性、グリット、統制の所在、正の互恵性がある人ほど両方のOCBに対して正であり、②従来の日本型雇用システム(長期雇用や内部昇進など)は、両方のOCBと正の相関をもつ、③職場内で助け合う、上司や同僚などと相談しやすい、技能多様性やタスク完結性の高い職務、正当な評価を得ている、仕事に対して熱意がある人ほど、二つのOCBに対して正であった。

これらの結果は、OCBを当然の義務と考えてきた日本企業に対して、日本型雇用システムの転換期にあっては、OCBの規定要因を再認識して、OCBを意識的に醸成する必要があることを示唆している。