金融危機を検知する早期警戒指標の先行・遅行構造

執筆者 相馬 亘 (日本大学)/家富 洋 (新潟大学)/吉川 洋 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2018年3月  18-P-005
研究プロジェクト マクロ・プルーデンシャル・ポリシー確立のための経済ネットワークの解析と大規模シミュレーション
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概要

本稿は、金融危機の兆候を検知する早期警戒指標について、2つの提案を行うものである。提案の1つは、早期警戒指標の作成に関係している。現在の早期警戒指標は、月次以上の長い時間間隔で記録された経済指標から構成されている。そのため、株価のようにミクロな変動の中に潜む不確実性の兆候を検知できていない。本稿では、この問題に対して、複素ヒルベルト主成分分析と物理学における繰り込みの考え方に基づいて、早期警戒指標の新たな作成方法を提案する。もう1つの提案は、早期警戒指標の運用に関係している。早期警戒指標には、先行・遅行構造が安定的に存在すると主張する研究がある一方で、金融危機のタイプは国、時代によって異なるため、そのような構造は存在しないという研究もある。この相違に対して本稿では、平成バブルの崩壊、金融機関の連鎖倒産、リーマンショックの前後での早期警戒指標の先行・遅行構造の変化を、複素ヒルベルト主成分分析を用いて検証する。そして、これらの金融危機においては、早期警戒指標には安定的な先行・遅行構造が存在していないことを明らかにし、この結果を金融政策に反映する方法について議論する。