政策評価のための横断面前後差分析(DID)の前提条件と処置効果の安定性条件(SUTVA)に問題を生じる場合の対策手法の考察

執筆者 戒能 一成 (研究員)
発行日/NO. 2017年12月  17-J-075
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概要

政策評価に用いられる処置効果("Treatment/Causal Effect")の評価手法として、政策措置の対象となった処置群とそれ以外の対照群での処置前後での差を比較する横断面前後差分析(DID; Difference-In-Difference, 「差分の差分」)の応用が注目されている。しかし横断面前後差分析(DID)により政策措置の効果を正しく推定するためには幾つかの前提条件が存在し、ランダム化による実験やマッチングを行った場合でもなお偏差を生じる場合があるなど、当該手法の応用には幾つかの注意を要する問題点が存在することが知られている。本研究では、先行研究における横断面前後差分析(DID)の前提条件について整理・考察するとともに、このうち特に処置効果の対象毎の安定性条件(SUTVA)に着目し、卸売市場での取引や寡占均衡の存在など政策措置による対照群への二次的影響の可能性がある場合や少数の試料しか得られず当該条件に問題を生じる場合であっても、事後的に時系列回帰分析を用いて二次的影響に起因する偏差を検出・補正する一連の対策手法を開発した。これらの対策手法の有効性とその限界を確認するため、実際に当該条件が問題となる福島県産和牛肉の東京都中央卸売市場での取引価格・数量やコシヒカリの卸取引価格の統計値を用いて、福島第一原子力発電所事故による風評被害の影響を処置と見なした実証試験を実施した。更に当該結果を基礎として、横断面前後差分析(DID)において必要な前提条件の充足を確認しつつ偏差のない推計を行うための標準的な手順および検定手法を提唱する。今後、航空輸送や電気通信あるいは電力・ガス卸売市場など、試料数が限定され政策措置の影響から独立な対照群を多数確保することが困難な分野や何らかの理由で実験的手法の応用が困難な分野での政策評価において、当該新たな対策手法の応用が期待される。