EUにおける国家補助規制の正当化原理とその意義の広がり

執筆者 青柳 由香 (横浜国立大学)
発行日/NO. 2017年11月  17-J-070
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第III期)
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概要

本稿は、EUにおける国家補助規制の正当化原理を明らかにするものである。国家補助規制は条約レベルのルールを通じて加盟国による補助の付与を規制する。国家はさまざまな政策目的を達成する手段のひとつとして事業者・個人に対する補助を供与する手法を採用しており、EU加盟国もその例外ではない。これを規制する事は国家の主権に基づく政策実現の手段の選択の余地を縮減することに他ならない。そのような強い制限をもたらす規制の導入がEUにおいて実現した背景にある規制の正当化原理としては、歴史的には加盟国間の通商政策的な目的が意図されつつも、域内市場における競争政策としての目的に収束したという経緯が見いだされる。学説等においては両者の他に政治的な性質、とりわけ国内レベルの民主主義を補完する効果、およびEUレベルの経済政策統合を実現する効果が規制の目的として指摘されている。これらのうち、欧州委員会および欧州司法裁判所等の実務では、競争政策としての運用がなされてきたが、2000年代以降、欧州委員会の政策文書などにおいて、EUの経済政策の実現の間接的な手段としての国家補助規制の役割も強くみられるようになっている。