【WTOパネル・上級委員会報告書解説㉓】コロンビア-繊維・衣類・履物の輸入に関する措置(WT/DS461/R, WT/DS461/AB/R)-資金洗浄対策としての貿易措置のWTO協定整合性-

執筆者 伊藤 一頼 (北海道大学)
発行日/NO. 2017年11月  17-P-030
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第III期)
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概要

本事案では、コロンビアが導入した複合関税制度がGATT2条違反であると認定されたが、コロンビアは、本件措置は資金洗浄行為(マネーロンダリング)に対抗し、それを通じて麻薬の取引や犯罪集団の活動を抑制することを目的とするものであり、GATT20条の例外条項において認められた「公徳の保護」のための貿易制限であると主張した。この「公徳」例外は、近年のさまざまな通商紛争において援用される機会が増加している規定であり、その射程範囲の広さから濫用の危険性も指摘され始めている。本件上級委員会は、何が「公徳」に該当するかについては各国の裁量を広く認めるという従来の先例を踏襲しつつ、一方で、当該国が採用した貿易制限措置がそうした公徳の保護を達成するうえで実際の効果を有していなければならないという判断基準を提示した。これは公徳例外の援用可能性に対して一定の制約を課すものであり、同条項の濫用を防ぐ手立てとして注目される判示である。なお、結果として本事案では、コロンビアの措置がGATT20条の要件を満たすとは認められなかったが、このことは、どのように貿易制限措置を設計すればGATT上で資金洗浄対策として正当化されるのかという問題を生み出す。資金洗浄対策は各国が取組みを迫られている課題であり、貿易措置も含めた包括的な規制が求められるところ、WTO/GATTルールとの整合性をいかにして確保するかは重要なテーマである。この点につき本稿では、GATTの例外条項に関する先例の判断枠組み、およびWTO内外の新たなルール形成の動向などを踏まえながら、資金洗浄対策における合法かつ実効的な貿易規制のあり方について考察を行っている。