ブミプトラ政策の文脈からみたマレーシアの政府系企業(GLC)改革

執筆者 熊谷 聡 (アジア経済研究所)
発行日/NO. 2017年8月  17-J-055
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第III期)
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概要

本稿では、マレーシアにおけるブミプトラ政策の歴史を振り返り、政府系企業(GLC)を中核とした現在の政策実施形態がなぜ選択されたのかを、企業統治の観点から明らかにしていく。マレーシア政府はTPP交渉においてブミプトラ政策を守る姿勢を当初より明確にし、結果的にも関連規定の例外扱いとすることに成功した。こうした同国の振る舞いを理解するためには、経済政策の範囲を超えて、憲法上にも規定があるブミプトラ政策について歴史的背景を知るとともに、GLCを中心とした現在の形態は、試行錯誤の末にたどり着いた結論であることを理解する必要がある。本稿で詳しく述べるように、ブミプトラ政策の実施を前提とするとき、政府・民間を問わずブミプトラ企業には「ソフトな予算制約」が生じる。これを克服することは難しく、国有企業のままで専門経営者を契約で規律付ける現在のGLCの形態は最善策の1つであるといえる。したがって、近い将来、GLCが積極的に民営化される可能性は低く、マレーシアが近い将来の通商交渉において、GLCおよびブミプトラ政策について妥協できる余地は極めて限定的であると考えられる。