【WTOパネル・上級委員会報告書解説㉒】アルゼンチン-金融サービスに関する措置(DS453)-課税情報の交換のない国に対する差別とGATS上の規律-

執筆者 川島 富士雄 (神戸大学)
発行日/NO. 2017年8月  17-P-028
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第III期)
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概要

租税回避地等課税目的の透明性を欠く国への対処は、各国の租税徴収システムに及ぼす大きな悪影響を理由に、長い間、国際的な課題とされてきた。本件においてアルゼンチンは、課税目的の情報交換の欠如を理由とする差別的税制などは、そうした国際的取り組みを受けたものであると主張した。本稿では、当該主張が、パネルおよび上級委員会のGATS2条1項(最恵国待遇)、同17条(内国民待遇)、同14条c号(一般的例外)等の解釈にいかなる影響を与えたのか分析する。

また、2008年の世界金融危機を受け、金融関連の政府規制の必要性が再認識される中、各国は信用秩序維持を理由とした措置を従来以上に幅広く、厳しい形で採用する傾向にあり、貿易制限を構成するリスクも拡大している。この背景の下、本件は、WTO発足以来、初めて金融サービスに関する附属書2(a)の信用秩序維持措置に関する例外(prudential exception)が援用され、大きな注目を浴びた。本件パネルおよび上級委員会が同例外に関し、いかに解釈を展開したか、金融サービス関連の政府規制のあり方に、いかなる実務的示唆が得られるか検討する。