企業成長のエンジンとしての産学官連携?知的クラスター政策の評価

執筆者 岡室 博之 (一橋大学)/池内 健太 (研究員)
発行日/NO. 2017年5月  17-J-037
研究プロジェクト 企業成長のエンジンに関するミクロ実証分析
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概要

産学官連携がイノベーションの促進のために有効な手段として注目され、日本でもクラスター政策による地域の産学官連携支援が行われてきた。しかし、欧州のクラスター政策と比較しうる文部科学省のクラスター事業については、ミクロデータに基づく定量的な評価分析が行われていない。本稿は公的統計の個票データを用いてパネル固定効果分析を行い、クラスター事業に採択された大学・公的研究機関・企業の研究費や参加企業の成長・生産性等への政策効果と、クラスター地域の製造業事業所へのスピルオーバー効果を定量的に検証する。分析の結果、クラスター事業への参加後に大学・公的研究機関・企業の内部使用研究費も、参加した大学・公的研究機関における研究費の外部支出と企業からの受け入れも、クラスター事業に参加していない大学などと比べて有意に増加したことが分かった。しかし、参加企業の経営成果には有意な効果が見られず、クラスター地域の製造業事業所の生産性にはむしろ負の効果が見られる。これらの結果は、クラスター事業によって産学官の共同研究は促進されたが、それが参加企業やその他の地域企業の成長や生産性上昇に十分に結びついていないことを示唆している。

Published: 池内健太,岡室博之.「知的クラスター政策による産学官連携支援の効果」,『企業家研究』第16号,pp.25-44,2019年.
http://www.kigyoka-forum.jp/mokuji.htm