AI/IoT時代における人的資本理論再考:社会ネットワークとしての人的資本が必須に

執筆者 中馬 宏之 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2017年5月  17-P-015
研究プロジェクト 人工知能が社会に与えるインパクトの考察:文理連繋の視点から
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概要

日本のサイエンス型産業の競争力低下パターンを敢えて一言で表現すれば、あらゆる事柄の記号化(デジタル化)・自動化・一目瞭然化によって製品・サービスやそれらを中核として内包するシステムの複雑性が不連続的に上昇し、既存の競争領域よりワンランク・ツーランク上の競争領域で迅速かつ頻繁に起こりはじめた競争(Systems of Systems競争)に対応できなくなって世界に劣後して行くというパターンに尽きる。加速してきたシステム複雑化に伴う急速な考察の系の拡大に歩調を合わせられなくなり、Systems of Systems 領域での競争(多段階競争と呼ぶ)に劣後していくというパーンである。本DPでは、このような状況が企業・組織の事業戦略や人事戦略上の失敗にのみ帰着するのではなく、産業を支えてきた大勢の人々に体化している企業・組織特殊的な人的資本自体のAI/IoT/ICTに起因する想定外の変貌・弱化傾向が、企業・組織の事業戦略や人事戦略の自由度を狭めてきている可能性も少なくないと主張する。そして、短期間に相変化が繰り返されるAI/IoT時代には革新性と保守性とを兼ね備えた自己変化能の高い人的資本が必須であるとして、そのような人的資本やその形成システムのモジュール特性、人的資本が社会ネットワークの中で企業・組織特殊化/一般化する原因、特定レイヤーの人的資本が特殊性から一般性に向かう動態特性とその原因などを、現象分類的なベッカー流の人的資本理論の限界を超えて解明しようと試みている。