日本の卸売・小売サービスは高いのか―商業統計マイクロデータに基づくマージン率推計と日米価格差

執筆者 野村 浩二 (ファカルティフェロー)/宮川 幸三 (立正大学)
発行日/NO. 2017年3月  17-J-026
研究プロジェクト 生産性格差と国際競争力評価
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概要

本稿は1997年から2014年までの4時点の商業統計調査(経済産業省)のマイクロデータによって商品別卸売・小売のマージン率を推計し、その測定値と米国商務省経済分析局における2007年ベンチマーク推計値とに基づき、卸売・小売サービスの日米価格差の測定を通じて同産業における価格競争力評価をおこなう。日本の卸売・小売業はGDPの14%と大きなシェアを占めながらも、依然として非効率性の存在が指摘され、成長戦略におけるひとつのターゲットとされる。Jorgenson, Nomura and Samuels(2016)は、2005年において日本の卸売・小売業の全要素生産性(TFP)水準は米国に比して33%低く、日本経済全体のTFP劣位(14.5%)の6.9%ポイントを説明する最大の部門であるとした。その測定は、Nomura and Miyagawa(2015)による卸売・小売サービスの日米の国内生産価格水準指数(PLI)や、商品別マージン率の日米格差に依存している。西村・坪内(1990a, 1990b)やIto and Maruyama(1990)などで検討されてきたように、マージン率は流通業の競争力評価のための重要な指標であるが、その測定は容易ではなく、また時系列的にも大きく変化しうる。

本稿ではマージン率推計において、国産品と輸入品との乖離、卸売・小売事業者が担う物流コスト、卸売の多段階性、またマージン非対象取引などを考慮することで、商品別マージン率の測定フレームワークの精緻化を図る。また事業所レベルで推計されるマージン率より、コモディティフローとしての商品の流れとしてみた商品別マージン率を算定し、その変化要因として、仕入先、販売先、販売方法および販売形態の差異による影響について評価をおこなう。日本の国民経済計算におけるマージン率は、産業連関表基本表でのベンチマーク推計値を基盤とするが、本稿の推計値は公式統計としての課題も指摘するものである。

卸・小売サービスの競争力評価として、マージン率は十分な指標ではない。それは商品自体の価格水準に大きく依存するからである。商品価格水準の日米格差を統御した、卸売・小売サービスPLIの測定値によれば、2007年では小売サービス価格では日米間で有意な差異は見いだされない。他方、日本の卸売サービス価格は米国に比して23%ほど高い。マージン率比較ではその高い商品価格に覆い隠されてしまうものの、日本の農林水産品や食料品の卸サービスは価格競争力の劣る部門である。測定誤差や十分に考慮されていないサービス品質の相違によっては幅をもって捉えるべきであるが、食料品、農林水産品、化学製品、紙・紙製品などは、日本の卸売サービスにおける価格競争力の劣位性の90%ほどを説明するものであり、効率改善に向けた余地が残るものと考えられる。