地域の雇用と人工知能

執筆者 浜口 伸明 (ファカルティフェロー)/近藤 恵介 (研究員)
発行日/NO. 2017年3月  17-J-023
研究プロジェクト 国際化・情報化新時代と地域経済
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概要

近年、人工知能・ロボット・自動化に関する急速な技術進歩により人々の雇用が奪われるのではないかという懸念が高まっている。そこで本研究では、職業別のコンピュータ化確率と日本の雇用データを用いて、コンピュータ化に対する雇用リスクを分析する。本研究の特徴として、職業の地理分布は国内で均一ではなく、ある職業は都市に多く、またある職業は地方に多いということが観測されていることから、特に地域の異質性を考慮することにある。同様に、職業の地理分布は男女別にも異なることから、男女別・都市規模別という観点からコンピュータ化に対する雇用リスクを分析する。

分析の結果、男性の場合、大都市圏ほどコンピュータ化されにくい職業に就いている労働者の割合が高く、コンピュータ化に対する雇用リスクが低くなる一方で、女性の場合、全く逆の傾向を示すことがわかった。つまり、大都市圏ほど、男性に対して女性はコンピュータ化に対する雇用リスクが相対的に高いということである。また、コンピュータ化確率の高い職業ほど就業者の平均教育年数の値が低い傾向にあり、コンピュータ化されにくい職業へ転職するには追加的な人的資本投資が必要とされることが示唆される。

政策的含意として、多くの先行研究が指摘するように、コンピュータによって代替されにくい職業や今後生まれる新たな職業へ容易に転職ができるよう、人的資本の底上げは重要であると考えられる。また十分な人的資本を保有しているにも関わらず、コンピュータ化確率の高い職業に留まっている就業者も観測されており、潜在的に持っている能力を十分活用できるような雇用流動化を支える政策が重要になってくる。さらに、人工知能の支援によってビジネス効率化とよりよいワーク・ライフ・バランスの双方が実現されれば長時間労働が必要でなくなり、労働者の能力に基づいて評価される雇用環境を整備することは、女性活躍推進という点からも必要になってくるだろう。

※本稿の英語版ディスカッション・ペーパー:18-E-032