イタリアにおけるサードセクターの包括的改革とその背景―日本との比較のなかで―

執筆者 後 房雄 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2017年3月  17-J-018
研究プロジェクト 官民関係の自由主義的改革とサードセクターの再構築に関する調査研究
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概要

2016年5月25日、イタリアにおいて、サードセクターの包括的改革に関して政府に必要な立法的命令を発する権限を委任する法律が可決された。政府が「サードセクター改革に関する指針」を発表してからでも約2年間を要した困難な過程の成果であった。この改革の目的としては、(1)サードセクターの参加へと開かれた新しい参加型福祉国家を構築すること、(2)社会的経済やサードセクターの固有の成長や雇用の潜在力を活かすこと、(3)サードセクターへの公的、私的な支援を安定化させ多様化すること、の3点が掲げられている。

可決された法律に含まれる改革の内容において重要なものは次の通りである。サードセクターに関する統一的法典を編纂し、民法、個別特別法、税法を整合的に調整すること、地方レベルにおける社会サービスの提供における政府とサードセクターの補完性の原則を踏まえた協力関係を確立すること、社会的企業の本格的な離陸を実現すること、税制も含めてサードセクターへの公的、私的な支援を整備すること、「祖国の防衛」のための青年の義務として兵役と共に普遍的な国民的社会奉仕を保証すること。

イタリアでは、社団、財団を制度化した1942年制定の民法を基礎としつつも、1980年代末以降、多くの個別特別法によってNGO、ボランティア活動団体、非営利組織、社会振興団体、社会的協同組合、社会的企業などの多様な制度が導入され、約30万団体といわれるサードセクター組織は、法人格、登録機関、税制などにおいて著しい混乱状態を呈してきた。この点は、1896年制定の民法34条を基礎にしながら、戦後のさまざまな特別法によって各種公益法人を設立するとともに、さらに近年、特定非営活動法人や一般社団、公益社団、一般財団、公益財団などの新しい法人格をも追加してきた我が国の状況と共通である。イタリアのサードセクター改革の試みを検討することで、我が国のサードセクターの今後のあり方について多くの示唆が得られる。