AIの法規整をめぐる基本的な考え方

執筆者 森田 果 (東北大学)
発行日/NO. 2017年3月  17-J-011
研究プロジェクト 人工知能等が経済に与える影響研究
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概要

ディープラーニング技術の発達に伴い、さまざまな局面でのAIの利用が目指されているが、AIの利用によって発生する事故について誰がどのような責任を負うのか、さらには、そのような事故を実効的な形で抑止していくためにはどのような法ルールの設計が望ましいのかについては、明らかにされていない。このため、法ルールの不確実性がもたらす法的リスクが、AI開発企業の一部に対して萎縮効果を与えているのではないかとの懸念もある。法ルールの不確実性を除去するための試みも始まっているが、AIの利用局面は多様であり、統一的な枠組みに基づいて望ましい法ルール設計を行っていく必要がある。本稿は、法の経済分析(法と経済学)の立場から、AIの利用をめぐる法ルールのあり方について、基本的な視点を提示する。具体的には、100%完全なAIを開発することが不可能であることを前提として、AIの利用によって発生する事故というのは、AIの開発者側に起因する要因と、AIの利用者側に起因する要因とが組み合わさって発生する、いわゆる双方的注意の事案であることが多いという認識から出発し、不法行為法ルールとしては、過失責任あるいは寄与過失の抗弁つきの厳格責任が望ましい、という点を指摘する。現行の日本の不法行為法および製造物責任法は、基本的にこれらの望ましい責任ルールの構造を有しており、AI開発・利用企業は法的不確実性を過度に重視する必要はない。