介護保険施行15年の経験と展望:福祉回帰か、市場原理の徹底か

執筆者 鈴木 亘 (学習院大学)
発行日/NO. 2016年12月  16-P-014
研究プロジェクト 少子高齢化における家庭および家庭を取り巻く社会に関する経済分析
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概要

日本の公的介護保険制度が2000年度に施行されてから、15年余りの月日が経過した。本稿はその15年の経験を経済学の観点から振り返り、その評価や課題について総括するとともに、今後の改革のあり方について提言した。

もともと2000年に介護保険制度が創設された主な理由は、それまで福祉行政の「措置制度」として、規制でがんじがらめであった介護サービス市場を民間開放し、介護サービスの供給量を一気に拡大することであった。その試みは当初成功し、過重な家族介護が次々に社会化されていった。しかし、その後の度重なる「非市場的」な財政抑制策により、制度の使い勝手は急速に悪化した。今後のさらなる抑制策実施は、介護保険を「措置へ先祖返り」させるものであり、制度創設時の努力・成果を無にしかねない。

この財政抑制の負のスパイラルから抜け出すにはどうすればよいのか。初心に返って市場原理を徹底させることこそが正しい解決策である。具体的には、介護版MSA(Medical Saving Account)導入による積立方式への移行、公費投入率の縮小による給付・負担バランスの確保、混合介護導入による価格の弾力化・自由化、(広義の施設も含む)施設介護分野における参入規制の撤廃、家族介護への現金給付の導入、保険運営の民営化などを行い、制度的に作られた市場の歪みを正すことが必要である。