雇用の流動性は企業業績を高めるのか:企業パネルデータを用いた検証

執筆者 山本 勲 (ファカルティフェロー)/黒田 祥子 (早稲田大学)
発行日/NO. 2016年12月  16-J-062
研究プロジェクト 企業・従業員マッチパネルデータを用いた労働市場研究
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概要

日本では雇用の流動性が低いため、生産性の高い労働者が成長企業・産業に移動できるように流動性を高めることが経済全体の生産性向上につながる、といった主張が聞かれる。その一方で、労働条件が極端に悪いために流動性が非常に高くなっている「ブラック企業」の存在も問題視されている。日本において望ましい雇用の流動性とはどのようなものだろうか。本稿ではこうした問題意識から、雇用の流動性が企業業績に与える影響について、企業パネルデータをもとに検証した。まず、経営学分野の研究で示されている最適流動性モデル(optimal turnover model)に沿った検証を行ったところ、雇用の流動性が高まるほど企業の利益率が高まるが、流動性が高すぎると利益率は低くなるといった逆U字の関係性がみられることが明らかになった。次に、雇用の流動性の影響がどのような企業でプラスになりやすいかを調べるため、階層クラスター分析によって属性をもとに企業を3つに類型化し、企業類型によって雇用の流動化の影響がどのように異なるかを固定効果モデルで推計した。その結果、日本的雇用慣行企業に近いタイプに類型される企業では中途採用のウエイトを高める形で雇用の流動化を進めると、利益率や労働生産性が上昇する傾向があることや、逆に、ブラック企業に近いタイプに類型される企業では中途採用のウエイトや離入職率を高めると、利益率や労働生産性の低下を招く可能性があることなどが明らかになった。これらの結果は、少子高齢化やグローバル化といった環境変化の下で、日本企業にとって望ましい雇用の流動性の水準が変化している可能性があることを示唆している。