無限定正社員と限定正社員の賃金格差

執筆者 安井 健悟 (青山学院大学)/佐野 晋平 (千葉大学)/久米 功一 (リクルートワークス研究所)/鶴 光太郎 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2016年11月  16-J-061
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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概要

本論文の目的は、処遇の実態が十分明らかにされていない限定正社員の月収、時間当たり賃金が無限定正社員とどの程度異なるのかを詳細に明らかにすることである。それぞれの平均的な差を明らかにしたうえで、Blinder-Oaxaca分解によりその賃金差のどの程度が人的資本や職種の違いにより説明できるのかを明らかにした。また、平均的な差だけではなく、分布の各分位における差も確認した。月収については、無限定正社員よりも勤務地限定は14.1%、業務限定は6.5%低いが、そのほとんどは属性の違いにより説明される。勤務地限定と無限定正社員の属性の違いとしては性別と労働時間が重要で、業務限定と無限定正社員の属性の違いとしては労働時間と職種が重要であった。時間限定正社員と残業限定正社員の月給は無限定正社員より低いということは観察されなかった。時間当たり賃金については、そもそも限定正社員の方が無限定正社員よりも高く、この時間当たり賃金の割増分は属性の差では全く説明できない。また、時間当たり賃金分布において、分位が高い限定正社員において割増分が大きい。したがって、本稿の分析対象に対しては、無限定正社員と比較して限定正社員という雇用形態のみの違いにより賃金面で不利益な取り扱いをされている可能性は小さいといえる。