タイの産業構造高度化に向けたマクロ経済・産業政策分析と対応の方向性について

執筆者 福岡 功慶 (コンサルティングフェロー)/落合 亮 (在タイ日本国大使館)/多田 聡 (在タイ日本国大使館)
発行日/NO. 2016年10月  16-P-013
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概要

本稿はタイのマクロ経済・産業政策分析を行い、タイが先進国となるために今後目指すべき産業構造の方向性および産業高度化にとって必要性の高い施策について議論するものである。タイは経済発展を遂げ1人当たりGDPは6000ドル程度に成長してきたが、成長率は減速傾向でGDPの水準は停滞し、いわゆる「中所得国の罠」に陥るリスクが懸念されており、産業高度化が急務の課題である。タイ産業のマクロ分析を通して、90年代から00年代後半にかけて、製造業やサービス業の労働生産性は上昇する一方雇用は拡大しており、農林水産業からより生産性の高い製造業やサービス産業に産業構造の重心を移していくことで、国全体の生産性を高めながら雇用を生み出してくことは可能であることを示した。更に、タイの経済・産業政策の変遷と現在の政権における産業政策分析からは、タイは今後これまでのような市場メカニズムを重視し、民間の活力を十分に生かす政策をベースとしつつも、より産業選択的な政策も取り入れていくことが重要であることを示した。具体的には、クラスター政策にインフラ政策やサポーティングインダストリー政策を整合的に組み込む重要性を論じ、自動車産業などにおいてどのような具体的施策が必要か、日タイの現在の協力状況を鑑みつつ提言を行った。本稿は、タイを始めとした多くの新興国が経済成長の結果無償ODAを卒業していく中で、今後日本が新興国においてどのようにWin-Winの関係を構築し、経済外交を展開すべきかについて示唆を与えるものである。