企業負債を通じた金融政策効果の検証~企業レベルデータによる実証分析~

執筆者 庄司 啓史 (衆議院)
発行日/NO. 2016年3月  16-J-034
研究プロジェクト 財政再建策のコストとベネフィット
ダウンロード/関連リンク

概要

金融政策には通貨発行益や景気刺激効果というベネフィットがある一方で、出口においては保有国債評価損、当座預金に対する利払いあるいは準備預金率の引き上げといったコストが発生する。特に異次元緩和政策によるマネタリーベースの拡大や保有国債の残存年限の長期化はそのコストを上昇させるリスクがある。本稿は上記問題意識の下、トービンqタイプの設備投資関数に資金制約を考慮したモデルを設定した上で、企業レベルのパネルデータおよびマクロレベルを使用するマルチレベル分析により金融政策の効果を検証したものである。本稿の分析結果を要約すると、(1)金融政策のうち政策金利部分については理論通り企業の設備投資に対して負の効果を持つ、(2)その一方で純粋な量的緩和部分については効果が限定的である、(3)ただし、量的緩和が期待インフレ率を上昇させることによる実質金利に作用する場合は、設備投資刺激効果を持ち得る、(4)多くの負債を抱える企業および1999年のゼロ金利政策導入以降は、量的緩和は企業の負債を低下させる効果を持つことで設備投資を刺激する効果は限定的となり、企業の異質性や名目金利環境下の違いによって金融政策の波及効果が異なる可能性がある、(5)Summers(2014)が唱えたSecular Stagnation仮説のとおり、自然利子率の代理変数である潜在成長率の低下は企業の設備投資需要を低下させる可能性が示唆された――となる。したがって、量的緩和政策はその効果を慎重に判断しつつできる限り抑制的であるべきで、政府による規制緩和などの構造改革によって生産性を向上させることこそが重要になるとの結論が導かれる。