銀行部門を通じた金融政策効果の検証~マクロレベルデータによる実証分析~

執筆者 庄司 啓史 (衆議院)
発行日/NO. 2016年3月  16-J-031
研究プロジェクト 財政再建策のコストとベネフィット
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概要

金融政策には通貨発行益や景気刺激効果というベネフィットがある一方で、出口においては保有国債評価損、当座預金に対する利払いあるいは準備預金率の引き上げといったコストが発生する。特に異次元緩和政策によるマネタリーベースの拡大や保有国債の残存年限の長期化はそのコストを上昇させるリスクがある。本稿は上記問題意識の下、トービンqタイプの設備投資関数、銀行のポートフォリオ関数などを含む簡易なマクロ経済モデルを構造推定し、金融政策の効果を検証したものである。本稿の分析結果を要約すると、(1)金融政策のうち政策金利部分については理論通り企業の設備投資に対して負の効果を持つ、(2)その一方で純粋な量的緩和部分については、実体経済に対するプラス効果と銀行の資産構成の変化を通じたマイナス効果の両方が発見され、ネットでは若干のマイナスとなる可能性が示唆された、(3)ただし、量的緩和が期待インフレ率を上昇させることによる実質金利に作用する場合は設備投資刺激効果を持ち得る、(4)Summers(2014)が唱えたSecular Stagnation仮説のとおり、自然利子率の代理変数である潜在成長率の低下する経済では相対的により高い水準の政策金利の引き下げが求められる可能性が示唆された――となる。したがって、量的緩和政策はコスト面から判断するとその効果を慎重に判断しつつできる限り抑制的であるべきで、政府による規制緩和などの構造改革によって生産性を向上させることこそが重要になるとの結論が導かれる。