産業、職種経験が有配偶女性の再就職行動に及ぼす影響

執筆者 佐藤 一磨 (明海大学)/深堀 遼太郎 (金沢学院大学)/野崎 華世 (高知大学)
発行日/NO. 2016年3月  16-J-030
研究プロジェクト ダイバーシティと経済成長・企業業績研究
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概要

本稿の目的は、『就業構造基本調査』の個票データを用い、産業・職種経験と育児を理由に離職した有意配偶女性の再就職行動の関係を分析することである。分析の結果、次の3点が明らかになった。1点目は、再就職に関する分析の結果、専門的・技術的職業従事者の中でも医療業、社会保険、社会福祉で働く看護婦、看護師、その他の保健医療従事者、社会福祉専門職従事者ほど再就職しやすいことがわかった。2点目は、同一職種への再就職に関する分析の結果、専門的・技術的職業従事者(看護婦、看護師、その他の保健医療従事者)ほど同一職種で働くことがわかった。また、同一産業への再就職に関する分析の結果、 卸売・小売業、飲食店やサービス業ほど同一産業で働くことがわかった。3点目は、不本意就業に関する分析の結果、再就職前後で同一職種であるほど、不本意就業となりにくかったが、中でも専門的・技術的職業従事者(看護婦、看護師、社会福祉専門職従事者)で不本意就業となりにくかった。また、再就職前後で同一産業であるほど、不本意就業となりにくかった。

以上の分析結果から、看護婦、看護師などの専門的・技術的職業従事者ほど同一産業、職種に再就職する場合が多いといえる。分析では労働需要の変化を考慮しているため、これらの産業や職種の場合だと産業特殊的人的資本や職種特殊的人的資本が特に重視されると考えられる。この分析結果は近年議論されているジョブ型正社員(限定正社員)と関連が深く、職務内容が明確であり、専門性が高いほど、外部労働市場での能力評価を行いやすく、円滑な移動が達成されやすい可能性を示している。しかし、今回の結果は、特定の仕事以外だと再就職後に違った産業、職種で働くことが多いことを意味している。自ら望んで、他業種への就職を希望する場合も考えられるが、より人的資本の損失が少ない形で再就職できるよう労働市場を整備していく必要がある。