機械工業化と産業政策

執筆者 河村 徳士 (研究員)/武田 晴人 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2016年3月  16-J-029
研究プロジェクト 経済産業政策の歴史的考察―国際的な視点から―
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概要

本稿は、日本の高度成長期に観察された高成長経済において、産業構成の機械工業化が進展したことに注目し、これに対する政策的な措置の意義を明らかにすることを目的とする。この課題に沿って、機械工業振興臨時措置法における助成措置の枠組みを既存の研究により確認しつつ、その中で、補助対象企業の選定における技術審査と融資審査という二段階の選定作業が適切な技術選択を可能にしたこと、その結果として品質と価格の両面で効果が上がったことを明確にする。同時に、このような機振法の直接的な効果が完成品メーカーの製品の改良とコスト低下にどのようにつながるかを検証する。この面では、素材価格の低下をもたらすような鉄鋼、石油化学、電力などの基盤産業の合理化の進展がこれらを利用する機械生産のコスト低下に貢献するなど、機械工業化は単独の機械工業への政策助成措置に帰するべきではなく、産業政策の複合的な政策効果と捉えられることができる。また、部品生産への助成が完成品生産の発展に貢献するうえで、組立加工生産を主務とする完成品メーカーでは労働分配率が上昇する傾向にあったことから、加工組立では生産性の上昇によるコスト低下は限定的であり、購入部品の価格低下や在庫削減、これに連動する金融コストの低下などを介して競争力が強化されたと考えられること、それ故にこそ機振法の果たした役割が重大であった。他面で、このような相対的に労働集約的な性格をもつ組立機械生産の拡大が雇用機会創出を持続的にもたらしたことが高成長の基盤となった。