経済の視点からみる「科学」-考え方とわが国の状況

執筆者 後藤 康雄 (上席研究員)
発行日/NO. 2016年3月  16-P-006
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概要

成長戦略の重要性がさけばれて久しい。成長力の向上に向けては、地道に生産性を高めていく努力が正攻法だが、そこでの欠かせない要素がイノベーションの促進である。イノベーションを突き詰めていくと、重要な源流の1つに「科学」の研究が挙げられる。本稿は、科学を経済の立場から考察する上での考え方を整理した上で、科学をめぐる状況を表す統計的エビデンスや政策の動向を国際比較の視点をまじえながら示し、今後の科学技術政策などのあり方を考える材料を提供するものである。経済学においては、科学的知識の公共財的な性格に着目した生産プロセスの社会的効率性や、科学を担う研究者らのインセンティブを考慮した生産性の観点などに基づき、科学を対象とした多くの研究の蓄積があり、「科学の経済学(economics of science)」と呼ばれる分野を形成している。わが国の科学をめぐる状況をみると、科学に投入する資金、科学を担う科学者のキャリア形成、科学が生み出す成果、科学の代表的な応用分野であるサイエンス型産業の状況などいずれの面においても厳しい。国際的にみても科学の経済的な成果に期待する傾向が強まる中、長期的な国際競争力と成長力を維持・向上する観点から、科学の分野へのリソース投入を幅広く促し、科学者の潜在力を引き出す仕組みの検討が求められる。