日本企業の「成果主義」人事制度-1980年代後半以降の「制度変化」史-

執筆者 梅崎 修 (法政大学)/Arjan KEIZER (Manchester Business School)
発行日/NO. 2016年3月  16-J-024
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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概要

本研究では、1990年代以降に多くの日本企業において導入された「成果主義」人事制度について歴史的に検証する。1990年代以降、日本の人事制度は、それまでの職能資格制度と職能給による「職能主義」から個々人の成果を強調する「成果主義」への移行が図られた(Keizer (2010))。ところが、「成果主義」人事制度は、現在に至るまでその評価が定まっていない。2000年代に入ると、成果主義に対する批判も生まれた(城(2004)、高橋(2004)、中嶋・梅崎・松繁(2004))。しかし批判を受けつつも、人事制度が「職能主義」へ戻ったわけではないので、今も成果主義導入後の試行錯誤が続いていると考えられる。したがって本稿では、一企業(A社)の長期にわたる人事制度の内部資料(1988-2015年)とヒアリング調査によって人事制度改革の意図と結果を分析し、なおかつ現在の日本企業が抱える人事制度の課題を検討した。約4000人の大企業であるA社は、1989年に職能資格制度と職能給を導入していたが、2001年には「成果主義」人事制度への移行を行う。ところが、導入後に制度運用の問題が発生し、2007年に制度の修正を行っている。それぞれの制度変化のそれぞれの時期に作成された内部資料を人事担当者へのヒアリング調査によって確認しつつ制度変化を分析した。

その結果、第1に能力という観測し難いものを評価する「職能主義」の下で、人事評価が年齢や勤続に流されていたこと、第2にその後の「成果主義」には、個々人の行動や業績と強く関連させた人事評価を行う意図があったことがわかった。しかし、職場のマルチタスクを想定すると、「成果主義」の下では測りやすい行動や成果ばかりを評価するという偏りが生まれた。そこで、評価分布の歪みを調整するために人材育成などの測り難い評価項目を強調したことが確認された。これらの分析結果によって1990年代後半以降の日本企業における人事制度変化の流れが整理された。