国有企業に対する国際規律―公正競争型ルールの進展―

執筆者 東條 吉純 (立教大学)
発行日/NO. 2016年3月  16-J-011
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期)
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概要

国有企業や特権企業による活動は、多くの国の経済において従来から重要な位置を占めており、その点は現在も変わりがない。とくに、公共サービスなどの提供の担い手として、公的所有または特権付与という法的形態が国家によって選択される場合も多い。

国有企業に対する国際規律は従来から論じられてきた問題であり、国有企業などの設立・運営を通じて、国家の国際法上の義務を潜脱するおそれが古くから認識されてきたが、近年、問題視されているのは、国有企業などに対して国家が与える各種優遇措置・競争上の優位性に由来する競争歪曲効果や悪影響である。国際規律の全体像を把握するためには、前者に対応する迂回防止型ルールと、後者に対応する公正競争型ルールとの区別が必要である。また、国際競争の「場」が国有企業の自国市場の場合(インバウンド競争市場)と外国市場の場合(アウトバウンド市場)とで、国有企業設立国の公益追求に対する法的配慮の必要性が異なるため、公正競争型ルールのあり方にも違いが生じる。

WTO協定上の国有企業規律は、原則として迂回防止型ルールの性質をもつが、特恵貿易協定(PTA)の競争章においては、公正競争型ルールが形成されつつある。これら規律のうち、インバウンド競争市場に適用されるルールについては、EU機能条約第106条2項モデルが、市場アクセス・バイアスを脱却し、競争政策と国有企業設立国の公益追求との適切な均衡を反映するルールとして注目される。