国有企業・政府系ファンドに対する諸国の外資規制―開放性と安全保障の両立をいかにして図るか―

執筆者 伊藤 一頼 (北海道大学)
発行日/NO. 2015年11月  15-J-059
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期)
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概要

2000年代以降、国有企業や政府系ファンドによる外国投資が活発化し、世界の資本市場における存在感を急速に高めている。それに伴い、こうした政府系企業による投資が、ホスト国の国益や安全保障を損なう恐れが指摘されるようになった。諸国の外資規制法令は、国家安全保障上の脅威に対する審査体制を強化し、とりわけ政府系企業による投資に対しては加重的な審査を課す国が増加している。しかし、一般に外国投資はホスト国に経済成長や雇用創出をもたらす要因であり、特に短期的収益に必ずしも左右されない政府系企業からの投資は歓迎すべき面もある。しかるに、諸国の外資規制法令は、安全保障上の脅威の認定において恣意的ないし保護主義的な判断に陥る可能性を含んでおり、外国投資の不必要な萎縮につながる恐れがある。安全保障面からの審査の余地を残しつつ、いかにそれを適切に限界づけ、自由な投資環境を確保するかが課題である。そのためには、透明性・無差別性・説明責任などの主要な行政原則を外資規制の場面にも取り入れ、政府系企業にも公法上の適正な処遇を与えることが必要である。本稿では、戦略的分野の防衛と外国投資の促進の間のバランスという観点から、諸国の外資規制法令を分析・評価し、望ましい制度設計のあり方を考察する。また、外資規制における不当な処分などに対して、外国投資家が投資保護協定を援用して国際仲裁法廷に提訴する可能性もある。それゆえ、諸国の外資規制措置は、国内法令のみならず、投資保護協定との整合性を意識しながら実施される必要がある。