国際マクロから考える日本経済の課題

執筆者 伊藤 隆敏  (プログラムディレクター) /清水 順子  (学習院大学)
発行日/NO. 2015年11月  15-P-019
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概要

国際マクロのさまざまな視点から日本経済の課題について実証分析を行った結果、以下を確認した。 第1に、今後予想される米国FRBの金利引上げは東アジア通貨のミスアライメントを加速する恐れがあり、東アジア諸国は域内為替相場のサーベイランスを行うとともに、域内外の資本フローの動向に注視する必要がある。第2に、本プロジェクトが主導して経済産業研究所(RIETI)のホームページで公表している産業別実質実効為替レートは、特定の産業の輸出価格競争力を国際比較することを可能とし、今後マクロ経済分析における重要なデータとして活用されることが期待される。第3に、為替レートや輸入原材料価格から日本の国内価格へのパススルーは2000年代から再び上昇している。 このパススルー「復権」はアベノミクス下の円安で同政策の初期の成功をもたらす重要な前提条件となりうるが、一方で原油価格変動などの外的要因の影響力が強まるため、国内物価の操作可能性はむしろ低下する恐れがある。第4に、アベノミクス後の円安で日本の貿易収支、特に輸出数量が改善されていない。 理由として、東日本大震災の福島原発事故による化石燃料の輸入急増、長引くJカーブ効果、ドル建て輸出の偏重と円安にも関わらず輸出価格が改定されていないことが指摘される。 さらに、自動車産業で現地通貨建ての輸出価格が硬直化している理由は、本社が現地小売企業を含む輸出流通構造全体を通じた価格戦略を採用していることが発見された。 為替要因だけでは、日本からの輸出数量、貿易収支の更なる改善は遅く、日本が真に成長するためには、円安局面でも円高局面でも常に価格設定力があり、かつグローバルな競争力を持つ企業、産業の育成が必要であることがわかった。