環境関連物品への相殺関税-WTOルールへの政策的示唆-

執筆者 蓬田 守弘  (上智大学)
発行日/NO. 2015年10月  15-J-056
研究プロジェクト 貿易・直接投資と環境・エネルギーに関する研究
ダウンロード/関連リンク

概要

太陽電池など再生可能エネルギー関連製品の貿易摩擦が激化している。2015年、中国政府の補助金が貿易を歪め国内産業に損害を与えたとして、米国政府は中国製太陽電池の輸入に対し最大で49.79%の補助金相殺関税を発動した。このような紛争を背景として、世界銀行のマトゥとピーターソン国際経済研究所のサブラマニアンは、太陽電池など環境関連物品については、WTOの補助金規律を緩和し相殺措置発動要件を厳格化すべきだと主張している。その根拠として、中国の補助金は米国の太陽電池普及を促すことで温室効果ガス排出削減による環境改善をもたらすが、米国の相殺関税にはこうした環境改善を損なう効果があることを指摘している。マトゥとサブラマニアンは経済学の視点からWTOルール改革案を提示しているが、正式なモデル分析を行っているわけではない。そこで本稿では、国際貿易論を応用した分析を行うことで、太陽電池などの環境関連物品に対する補助金・相殺措置はどうあるべきかを検討する。太陽電池をはじめとする環境関連物品の特徴として、消費拡大に伴う環境改善の外部性を考慮し、太陽電池が装置産業であることから不完全競争市場を想定したモデルにより分析を行う。消費の外部性を内部化する措置として国内生産補助金が供与される場合でも、外国からの環境関連物品に課される相殺関税は外部性のない通常の財に比べ抑制されるべきことが明らかにされる。また、本稿の分析結果に基づいて、太陽電池など環境関連物品に関わるWTO補助金・相殺措置ルールの改革案に対する政策的含意を導く。