沖縄の自立型経済振興のための財政措置の効果分析:多地域間CGEモデルを用いて

執筆者 沖山 充  (麗澤大学) /池川 真里亜  (筑波大学) /徳永 澄憲  (麗澤大学)
発行日/NO. 2015年7月  15-J-038
研究プロジェクト 経済グローバル化における持続可能な地域経済の展開
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概要

本稿は、沖縄県を含む6地域間CGEモデルを使って、沖縄振興策の1つの大きな柱である「沖縄振興一括交付金」に焦点を当て、この交付金のうち「沖縄振興特別推進交付金(ソフト)」を沖縄県が産業振興(補助金)という形で自立型の経済振興を行うために、どの産業にどれだけ配分することが沖縄経済や県民の経済厚生の視点から、より効果的であるのかについて分析した。

その結果について次の4点に要約することができる。第1点は、平成26年度沖縄振興特別推進交付金をベースにした987億円の財政移転がなされると、沖縄県に1232.4億円の経済厚生の増加をもたらし、沖縄の実質県内総生産(GRP)は2005年の基準値に比べて2.155%上昇する。加えて、同様に2005年(基準年)の労働力人口ベースで1.7万人の雇用創出効果をもたらす。第2点は、沖縄の県内産業への波及効果や県民の経済厚生の視点から、観光業などのサービス業よりは製造業を活性化させた方が効果的である。第3点は、沖縄振興一括交付金の一部をさとうきびや葉たばこなどの農業(地域資源)とそれらを資源として活用する食料品・タバコの産業等に重点配分した方が、運賃コストの削減効果が期待される運輸業に同額を支給するよりは、各生産活動への波及効果に加え、地域資源の活用や離島振興の視点からも効果的である。第4点は、平成27年度沖縄振興一括交付金が前年度よりも減額になったが、前年度並みの県民の経済厚生を確保するには、これまで沖縄県庁や市町村が主体となっていた事業に配分されていた交付金の2/3程度を各産業の生産活動への補助金に振り向ける必要がある。

こうした分析結果から、沖縄振興計画期間中に沖縄県が自主的な選択で実施できる事業に、離島振興や実行性の視点から農業との産業リンケージのある比較優位のある食品加工業を「農工連携産業」として成長させることが望ましい。しかし、将来的には新エネルギー産業や移輸出型製造業といった「新リーディングインダストリーの育成」も視野に入れる必要があろう。加えて、割高の運賃コストを軽減できるように運輸業の生産性の向上が図られるインフラ整備の推進も不可欠である。こうした環境が整備され、かつ本土からの資本を呼び込むことができれば、「真水」である交付金効果をより一層高めることができ、かつ沖縄経済の持続的成長を期待することができるといえる。