再生可能エネルギー補助金と相殺関税の経済分析-米中太陽電池貿易紛争の事例を中心に-

執筆者 蓬田 守弘  (上智大学)
発行日/NO. 2015年6月  15-J-033
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期)
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概要

本稿では、米中の太陽電池貿易紛争を事例として、太陽電池補助金と貿易の実態を解明すると同時に、こうした貿易紛争を回避するためのWTO補助金・相殺措置ルールの修正案について経済学の視点から考察する。はじめに、太陽電池の生産構造やバリューチェーンに着目し、米中間で生じている工程間分業の実態を明らかにする。次に、米国商務省や米国国際貿易委員会の資料をもとに、中国の太陽電池製品を対象とした米国の相殺関税調査を詳細に検討する。米国による貿易救済措置発動後、中国企業による関税回避行動の疑いが生じ再度の調査が行われた。中国企業の関税回避がバリューチェーンの再構成を通じて行われたことをデータから確認すると共に、米国が関税回避の抜け穴を塞ぐためにどのような措置を実施したのかを明らかにする。また、米国に対する中国の報復措置についても検討する。世界銀行のマトゥーとピーターソン国際経済研究所のサブラマニアンは、米中太陽電池貿易紛争が、再生可能エネルギー利用を通じた地球温暖化対策へ悪影響を及ぼすとの理由から、WTO補助金・相殺措置ルールの修正案を提示した。太陽電池などの環境関連物品・技術の補助金には環境改善という便益があり、WTOルールの貿易救済措置はその便益を損なうため、そうした措置の発動をより強く制限すべきだという内容である。本稿では、国際貿易の標準的なモデルを使って、彼らの主張を再検討した。その結果、輸出補助金については彼らの主張が必ずしも成り立たないことを示すと同時に、国内生産補助金のケースでは、彼らの主張とは逆に相殺関税が環境改善の便益をもたらすことを明らかにした。