無形資産投資と日本の経済成長

執筆者 宮川 努  (ファカルティフェロー) /枝村 一磨  (NISTEP) /尾崎 雅彦  (大阪大学) /金 榮愨  (専修大学) /滝澤 美帆 (東洋大学)/外木 好美 (神奈川大学)/原田 信行 (筑波大学)
発行日/NO. 2015年6月  15-P-010
研究プロジェクト 日本における無形資産の研究:国際比較及び公的部門の計測を中心として
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概要

本稿は、科学技術研究費基盤(S)「日本の無形資産投資に関する実証研究」および(独)経済産業研究所の「日本の無形資産投資に関する研究」プロジェクトで実施されたさまざまな調査および研究をもとに、日本の無形資産投資をマクロ・産業・企業レベルから概観したものである。無形資産投資は、IT化を生産性向上につなげる補完的な役割を果たすと見なされている。日本の無形資産投資は、2000年代で約40兆円弱(GDP比7%程度)だが、近年その伸び率が低下しているため、国際的にみると経済成長への寄与は、最低レベルにある。また産業別に見ると、サービス産業での蓄積が低下しており、韓国とのギャップが縮小している。しかし実証的には、IT関連産業の生産性向上には寄与しており、また企業価値の増加にも寄与していることから、今後も無形資産投資の蓄積は生産性の向上に大きな役割を果たすと考えられる。企業へのアンケート調査で、無形資産投資の実施状況を調べると、サービス産業で、人材育成を行っていない企業が多く、この点はマクロレベル、産業レベルでの、人材育成投資の減少と整合的である。これとは別に経営管理に焦点をあてたインタビュー調査をもとに算出された経営スコアを日韓で比較すると、日本の経営スコアは韓国の経営スコアをおおむね上回るものの、2011-12年の調査では、韓国の大企業の経営スコアは、日本の大企業の経営スコアを上回るようになっている。日本企業の結果を見ると、組織改革、IT活用、専門性重視の人事政策は、経営スコアを高める方向に働いている。以上の結果を総合すると、無形資産投資の蓄積は、IT化を通した生産性向上に不可欠であり、両者を合わせて推進することが、企業のみならず経済全体の成長に必要である。特に近年低下が著しい人材育成投資については、労働市場改革を通した人的資源管理の改善とともに、個々の労働者へのスキルアップに関する企業、家計両面へのサポートが望まれる。