オーストラリアにおける競争中立性規律―TPP国有企業規律交渉への示唆―

執筆者 川島 富士雄  (名古屋大学)
発行日/NO. 2015年6月  15-J-026
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期)
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概要

2015年に入り環太平洋経済連携協定交渉(以下「TPP交渉」という)が大きな進展を見せている。これまで同交渉を長らく難航させてきた要因として知的財産、投資といったテーマが指摘されるが、それらと並んで「国有企業に対する規律」が大きな争点となっている。同規律案は米国国内産業からの国有企業などに対する優遇策が競争歪曲をもたらしているとの強い懸念を受けたものだが、同交渉の厳格な情報統制のため、その正確な内容はいまだ公表されていない。

本稿は、TPP交渉における「国有企業に対する規律」交渉過程を、公となっている情報に基づき、たどった上で、国有企業などに対する優遇措置がもたらす競争歪曲を除去するための規律、いわゆる「競争中立性規律」に関する先進国であるオーストラリアの経験を紹介する。同国が「競争中立性規律」を導入するに至った経緯、同規律の内容および具体的事例の検討を通じて、TPP交渉における「国有企業に対する規律」案の意義と背景、その成立可能性、規律導入に際し考慮すべき要素および成立した場合の国内実施のあるべき姿について幅広く示唆を得るよう努める。あわせてオーストラリア型の規律を関連する「競争中立性規律」と比較対照しながら、国際経済法における「競争中立性規律」の必要性と発展可能性について検討し、展望する。